スタンプラリーといえば、かつては台紙にスタンプを集めていくのが主流でした。しかし近年では、スマートフォンを使ったデジタルスタンプラリ―も普及しています。遊び方も、ただスタンプを集めるだけでなく、さまざまな工夫を凝らしたものが登場しています。
鳥取県を走る若桜鉄道で、3月14日から5月31日まで開催されているデジタルスタンプラリー「若桜鉄道トレインスタンプコレクション」も、そんな工夫がこらされた企画の一つ。スタンプを収集するだけでは(一部を除き)景品をもらうことができず、ゲーム性があるという特徴があります。

鉄道コムは今回、スタンプラリーの開発に携わったカシオ計算機などの協力のもと、若桜鉄道のデジタルスタンプラリーを体験、取材しました。その模様をご紹介しましょう。
若桜鉄道とは
今回のスタンプラリーを展開している若桜鉄道は、郡家(こおげ)駅と若桜駅を結ぶ19.2キロの若桜線を運営する、第三セクターの鉄道会社です。

若桜線はもともと、1930年に国鉄(当時は鉄道省運営)若桜線として開業。1980年代に国鉄の赤字が問題になると、「特定地方交通線」の一つとして廃止対象に挙げられましたが、地元は第三セクター鉄道としての存続を決定し、1987年にJR西日本から若桜鉄道に経営が移管されました。
現在の若桜線は、1日13往復(土休日は12往復)が運転されており、このうち半数近くがJRの因美線に直通して、鳥取駅へと乗り入れています。
営業運転に使用している車両は4両。このうち3両はWT3000形という車両です。WT3000形は、2018年から2020年にかけて実施されたリニューアルにあわせ、それぞれに「昭和号」「八頭号」「若桜号」という愛称がつけられました。リニューアルは、JR九州の車両デザインなどで知られる水戸岡鋭治さんが関わっており、一般列車用の車両ながら有料の観光列車のような雰囲気を演出しています。

もう1両は、WT3300形。こちらは「隼ラッピング列車」です。若桜鉄道の途中駅に隼駅があり、スズキのバイク「隼」と名前が同じであるという縁から、2016年以降このラッピング車両となっています。

現在のラッピングは4代目で、3月17日に運転を開始。前日は隼駅で式典が開催され、鳥取県の平井伸治知事などの臨席のもと、新たな車両がお披露目されていました。


ただ集めるだけではないスタンプラリー
今回のスタンプラリーは、腕時計「G-SHOCK」などで知られるカシオ計算機が開発したスマートフォンアプリ「MEGURUWAY」を使用しています。スポットは全12か所。スタンプは、QRコードの読み取りかGPSで位置を認証したうえで、クイズに解答することで獲得可能です。

まずは、鳥取駅から若桜線直通の列車に乗車。「車両内」もスタンプスポットになっているため、さっそく一つ目を獲得します。
車両内のスタンプは、車内に掲出されたポスターのQRコードを読み取ることで、乗車したことを認証。アプリで読み取るとクイズが出てくるので、これに答えて正解すればスタンプを獲得できます。ちなみに、クイズは選択式と記述式がありますが、どちらも何度間違えたとしてもスタンプ獲得不可にはなりません。


車両内で獲得したスタンプは、「レア」の「排雪モーターカー(ピンク)」でした。

続いて、因美線と若桜線の接続駅である郡家駅で、一旦下車します。若桜線のJR線直通列車は、郡家駅でしばらく停車するダイヤとなっているものが多く、スタンプラリーのために途中下車しても、次の列車までしばらく待つということはあまりないようです。
郡家駅の認証もQRコードの読み取りでしたが、この駅のクイズは記述式。ヒントは示されていますが、地元のネタということもあり、回答には少し苦労しました。


ふたたび車両に乗り込み、いよいよ若桜線へと入っていきます。ここから先は、若桜駅構内の2か所を除き、すべてGPSでスタンプを獲得する形になります。駅に到着したタイミングで、画面の「とうちゃく!」ボタンを押し、位置を認証。クイズに答え、スタンプを獲得する流れです。

八頭高校前駅で獲得したスタンプは、「スーパーレア」の「DD16-7」。先ほどとはレアリティが異なるスタンプが獲得できました。

このスタンプラリーでは、スタンプは全42種類あり、それぞれに「ノーマル」「レア」「スーパーレア」のレアリティがつけられています。あるスタンプスポットで獲得できるスタンプは固定ではなく、全42種類(獲得済みスタンプを除く)の中からランダムに選ばれます。
そして、このスタンプラリーでユニークなのが、同じレアリティのスタンプが横並びで揃った際、つまり横方向のビンゴを達成した際に、賞品がもらえるという仕組みです。スタンプを集めた数で賞品がもらえる、あるいは賞品の抽選に応募できるわけではなく、賞品がもらえるか否か、どの賞品がもらえるかは、実際にスタンプをいくつも集めてからでないとわからない、ランダム性が強いスタンプラリーとなっているのです。
賞品は、スーパーレア賞が、若桜鉄道オリジナルデザインのG-SHOCK。他では手に入らない限定品です。レア賞が、リニューアル前のWT3000形「さくら号」の「鉄道コレクション」、またはレール文鎮と犬クギのセット。ノーマル賞が、各駅ゆかりの鉄道グッズとなっています。これとは別に、全スタンプの収集で、コンプリート賞ももらうことができます。
若桜線は、起終点含め全9駅がありますが、今回のスタンプラリーでは鉄道以外の施設、「隼Lab.」(はやぶさラボ)もスタンプスポットとなっています。

隼Lab.は、隼駅付近にあるコミュニティ複合施設。閉校となった旧隼小学校をリノベーションし、地域交流の場やサテライトオフィスとして活用できる施設となっています。施設は官民一体となって運営されていますが、この隼Lab.の取り組みを推進し、また若桜鉄道の経営にも関わる八頭町が、町の取り組みを知ってもらいたいということで、今回のスタンプラリーのスポットに選ばれたといいます。

余談ですが、隼Lab.となった旧隼小学校には、小学校では珍しい50メートルのプールがありました。1930年、つまり若桜線開業と同じ年に設置されたのが始まりで、山陰初の公認50メートルプールという、公式競技でも使用できるものだったとか。このプールは、小学校が廃校となった後も、町営プールとして活用されています。

順調にスタンプを収集し、若桜鉄道線の終点、若桜駅に到着しました。ここでは、駅舎内とSL車庫付近の2箇所がスタンプスポットとなっています。

ローカル線の終着駅らしい若桜駅には、かつてSLが走っていたころの設備が残されており、現在は一部が有料エリアとして開放されています。

エリア内には、SLの向きを変えるために使われた転車台があるほか、C12形167号機とDD16形7号機という、2両の機関車が保存されています。
C12形は、線路設備が低規格のローカル線(簡易線)向けに製造された、タンク式の蒸気機関車。167号機は、かつて鳥取地区で活躍していた機体で、引退後は兵庫県内で保存されていましたが、2007年に若桜鉄道が譲り受け、若桜駅へとやってきました。
現在、167号機は後部にコンプレッサーを搭載しており、圧縮空気を使用して走行することが可能です。車籍がないため本線上での営業運転はできないのですが、2015年には機械扱いとして、線路を封鎖した上で若桜線を走行したことがあるそうです。

もう一つの展示車両であるDD16形も、C12形同様、線路規格が低い路線向けに製造されたディーゼル機関車です。全国のローカル線などで活躍していましたが、機関車列車の減少に加え、DD16形しか使用できない路線なども減ったことで、国鉄末期に急速に数を減らしていました。現在は数両が保存されていますが、エンジンを動かせる状態にあるDD16形は、八戸臨海鉄道の303号機(ただし引退済み)と、この若桜鉄道の7号機のみとのことです。

C12形とDD16形は、ただ展示されているだけでなく、冬以外には展示運転や運転体験でも使われています。2025年4月現在、機関車の運転体験を定期的に実施しているのは、北海道の三笠鉄道村、群馬県の鉄道文化むら、埼玉県の秩父鉄道、岐阜県の明知鉄道、そして若桜鉄道のみ。特に、ディーゼル機関車の運転体験が定期的に開催されているのは若桜鉄道のみということもあって、全国から多くの鉄道ファンが訪れているそうです。
本題のスタンプラリーに戻ると、スタンプのQRコードは、敷地内の給水塔と建屋に掲出されています。給水塔は、SL現役当時に使われていたもの。隣に展示されているSLともども、往年をしのぶ産業遺産として、国鉄時代の歴史を今に伝えてくれているようです。

今回のスタンプラリーでは、隼Lab.以外は鉄道施設がスタンプスポットとなっていますが、若桜町ではこれとは別に、若桜町観光協会による「MEGURUWAY」使用のスタンプラリー「鳥取県若桜町よくばりロマン紀行」も開催されています。若桜駅周辺は、かつての城下町・宿場町の雰囲気を残すレトロな建物が多く、「よくばりロマン紀行」で楽しみつつ、駅周辺を散策するのも楽しいかもしれません。

スタンプラリーの結果は?
さて、ここまでで全てのスタンプスポットを巡ってきましたが、その結果は……?
なんと「レア」スタンプがビンゴ!レア賞の賞品をもらうことができました。

ビンゴを達成すると、アプリ内でクーポンを表示することができます。このクーポンを提示することで、賞品がもらえる仕組みです。

賞品の引き換え箇所は、若桜駅駅舎内のカフェ「わかさカフェ retro」と、若狭駅前の飲食店「ごはんとおみやげ yamaneya」、郡家駅駅舎内の八頭町観光協会案内所の3か所です。なお、賞品は基本的にその場でもらえるのですが、スーパーレア賞のG-SHOCKのみは後日配送だということです。

レア賞の賞品は、リニューアル前のWT3000形「さくら号」の「鉄道コレクション」か、レール文鎮と犬クギのセットです。今回は鉄道コレクションを選択しました。

「リセマラ」推奨!? 他のスタンプラリーではあまり見られない楽しさ
ところで、ここまでご紹介したスタンプラリー画面の中のスタンプが、途中から変わっていたのはお気づきでしょうか。
このスタンプラリーでは、収集したスタンプをすべてクリアし、初期状態にリセットすることで、最初からスタンプを集め直すことができます。そのため、往路でビンゴが完成しなかった場合でも、一度リセットし、復路で再度収集することで再挑戦する、ということが可能となっています。
「それはズルでは」と思われるかもしれませんが、この方法は、なんと若桜鉄道が推奨しているとのことです。


スマホゲームでは、初回プレイ時に配布されるキャラやカードなどを、性能が高いものが出るまでリセット(アプリのインストールとアンインストールの繰り返し)をし続けること、通称「リセマラ」(リセットマラソン)という行為があります。このスタンプラリーでも、アプリのアンインストールは不要ですが、同じように状態をリセットし、スタンプを集め直すことが可能。最初の郡家駅でスーパーレアのスタンプが出るまでリセマラし、スーパーレア賞を狙うということもできます。
一般的なスタンプラリーでは、ラリー台紙を複数枚持たない限り、一度集めたスタンプは再度集めることはできません。そして、ほとんどのスタンプラリーでは、複数枚の台紙を持つことはNGとされています。
しかし、デジタルスタンプラリーの場合は、物理的な制約はないため、集めたデータをリセットしてしまうことが可能です。その特性を活かし、行きも帰りもスタンプラリーを楽しんで、また可能であれば何度でも若桜鉄道を訪れてもらいたい。今回のスタンプラリーには、そのような意図が込められているということです。

ただし、賞品は各賞とも1人1回まで。往路と復路でレアスタンプのビンゴを達成したとしても、その賞品は1回しか受け取れません。一方、往路でノーマルのビンゴ、リセットした後の復路でレアのビンゴと、別ランクのビンゴを達成した場合は、両方の賞品を受け取ることができます。また、全スタンプ収集によるコンプリート賞は、賞品受け取りの回数制限はないということです。
若桜鉄道では、若桜駅や隼駅などの歴史的建造物が、2008年に一括で国の登録有形文化財に登録されました。門司港駅の本屋(駅舎)のように、ある鉄道関連施設が単独で登録されることは多いのですが、路線内のさまざまな施設を一括で登録対象とするのは、鉄道では初めてのことだったといいます。
そんなレトロな施設が数多く残されており、さらにレトロな雰囲気にリニューアルされた車両も走り、終点の若桜駅にはSLとディーゼル機関車が保存されている、鉄道ファンでもそうでない人にもオススメの若桜鉄道。このスタンプラリーにあわせて訪れてみるのはいかがでしょうか。
(取材協力:カシオ計算機、若桜鉄道)