「劣等生」を変えたい ローカル線廃止に抗う、公募社長の戦略

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箱谷真司
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 日本海に面した新潟県上越市に、鉄道の車両基地に開いた観光施設「直江津D51レールパーク」がある。

 蒸気機関車に乗り、直江津駅そばまでの約250メートルを約5分かけて往復できる。沿線の駅名が入ったキーホルダーなどのグッズも買える。5月末の週末、長野県から家族で訪れた40代男性は「機関車の迫力がすごい」と興奮ぎみに話した。

 開業は昨年4月。運営するのは、官民が出資する第三セクター「えちごトキめき鉄道」だ。「まずは駅を訪れるハードルを下げるのが大事。来てくれた人たちが、在来線に乗ってくれなくてもいいんです」と鳥塚亮社長(61)は語る。

 鉄道に乗ろうといきなり呼びかけても、成果は出にくい。駅周辺に人を集め、鉄道やポスターを見て興味を持ってもらう。そのうえで、将来的に乗客も増やす――。そんな二段構えのしかけだという。

 鳥塚氏の経歴は異色だ。

 もともとは英国の航空会社ブリティッシュ・エアウェイズの社員。2009年、房総半島の南東部を走るいすみ鉄道千葉県大多喜町)が社長を公募していると知る。鉄道好きが高じて、思い切って応募すると採用された。年収は半分ほどになったが、ローカル線の立て直しに使命を感じた。

 いすみ鉄道は沿線の人口も減少するなか、廃線の危機に直面していた。そこで鳥塚氏が掲げたのが「観光鉄道化」。宣伝文句は「ここには、『なにもない』があります」。有名な観光地ではないが、菜の花畑など自然の美しさをゆったり楽しめる魅力をPRした。鉄道車両にムーミンをあしらった観光列車なども取り入れた。

 沿線の駅での物販なども充実させた。社長自ら売り場に立ち呼びかけた。「乗らなくても良いので遊びに来てください」

 はじめて通年で経営を率いた11年3月期決算の旅客運輸収入は8837万円。沿線の人口が減るなかでも観光客らを呼び込み、退任直前まで9千万円以上を保った。営業損益は赤字が続いたが、いすみ鉄道の知名度を全国区に押し上げた。「地域で鉄道を活用する道筋はできた」と、9年で退任した。

 19年2月、SNSでメッセージが届いた。上越市にある直江津小学校の教師からだ。「子どもたちが鉄道の発表会をするので、見に来てください」

 直江津は、県内で初めて鉄路が敷かれた地域だ。現地に足を運ぶと、子どもたちは「直江津は鉄道の街だ」と言う。「鉄道に愛着がある地域は、(活性化の)タネをまけば芽が出る」。経験から感じていた。

 3カ月後、地元の「えちごトキめき鉄道」が社長を募集し始めた。もう一度、やってみようか――。

記事の後半では、鳥塚社長が次々に打ち出している新たな戦略を紹介します。存続できるかどうかが注目されている「JR大糸線」についても、考えを聞いています。

 上越市が本社のえちごトキめ…

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