現場へ! 農地と開発④

 埼玉スタジアム(さいたま市緑区)はJリーグ・浦和レッズのホームスタジアムだ。レッズの試合がある日、最寄りとなる埼玉高速鉄道(SR)の終点・浦和美園駅は、赤いユニホームを着たファンであふれる。

 駅から埼玉スタジアムまでの約2キロを中心にした南北に長い地区はもともと田畑が広がり、原則として建物が建てられない「市街化調整区域」だった。

 2002年のサッカーワールドカップ開催に合わせて区画整理され、建物が建てられる「市街化区域」になって、約320ヘクタールの街が出現した。前年にはSRも開業し、21世紀に入ってできた街はいまや人口が約3万人になった。

 東京都心まで50分ほどの便利さもあり、地価は上がり続けている。今年3月公表の公示地価では、駅から10分ほどの住宅地は埼玉県内トップの年5%の上昇率になった。この5年では2割近くも上がっている。

 一方、20年ほどで大きく変わってしまった街の様子に、まわりの田園地帯で暮らす人たちの思いは複雑だ。スタジアムわきを流れる綾瀬川の対岸にある同市岩槻区の地区では市街化調整区域が残り、いまも田畑が広がる。

 80代の男性は30年ほど前まで、先代から引き継いだ農地約1ヘクタールで主にレンコンやクワイを育てていた。午前3時に起きて収穫し、7時には埼玉県上尾市の青果市場に出荷した。「沼地の作業で大変だったけど、いい収入になった」と振り返る。

 しかし、息子は会社に勤め、孫たちも公務員や会社員になった。農作業の担い手は男性だけで、いまは農地の3割ほどでコメを作る。農薬や肥料の仕入れ代は年々上がり、大した利益は生まない。耕作放棄とみなされれば、固定資産税が高くなる。

 そうならないように草刈りをするだけの「農地」もある。生活費の足しにと、一部は資材置き場として貸している。まわりの「農地」にも、高さ2、3メートルの鉄板の壁で囲まれた資材置き場や駐車場が目立つ。

 「年をとって農作業はままならないし、後継ぎもいない。生活のためには貸すしかない。事情はどこも似たようなもんだ」

 固定資産税の基準となる「標準…

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