赤字の新宮―白浜間、その行き先は JR西発表

国方萌乃
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 【和歌山】経営悪化で不採算路線の維持が難しくなるなか、JR西日本は、利用人数が少ないローカル線の収支を公表した。どこも大幅な赤字だが、なかでも、紀勢線の新宮―白浜間は収支が公表された30区間で2番目の赤字路線だ。

 JR西は11日、2019年度に輸送密度(1キロあたりの1日平均利用者数)が2千人未満だった30区間の収支を公表した。県内では、紀勢線の新宮―白浜間(95・2キロ)が1085人と2千人を下回っている。

 同社によると、新宮―白浜間の輸送密度は、民営化当初の1987年度は4123人だったが、30年後の2017年度は1222人と3割まで減った。コロナ禍に入った20年度は608人とさらに減った。

 この区間の18~20年度の3年分の収支を平均すると、1年につき29・3億円の赤字だった。山陰線の出雲市―益田間(島根県)の35・5億円に次ぐ、2番目の赤字路線だ。営業係数は「647」で、100円の収入を得るために647円の経費を要する計算になるという。

 県総合交通政策課の担当者は「利用者が少なくなっている背景に、人口減少と高速道路が延伸して自動車利用が増えたことがある」とみる。熊野古道などの観光地への足でもあったが、コロナ禍で観光客は減った。「自転車をそのまま電車に持ち込める『サイクルトレイン』などで利用促進をはかっていく」と話す。

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 コロナ禍で鉄道利用者は急減している。JR西は2020年度の2332億円の赤字(前年度は893億円の黒字)に続き、21年度も最大1165億円の赤字を見込む。1987年の民営化以来、初めて2年連続の巨額赤字を計上することになる。

 これまで都市部路線のもうけで地方路線の赤字を埋め合わせてきたが、コロナ禍は、その手法に追い打ちをかけている。

 同社の長谷川一明社長は昨年12月、朝日新聞のインタビューで「(輸送密度が)2千人以下のところは鉄道の特性を生かせず、非効率だ。非効率な仕組みを民間企業として続けていくことが現実的に難しくなってきている」と述べた。

 今回、同社が収支を公表したのは、まさに輸送密度が「2千人未満」の30区間。すべての区間で民営化の当初に比べて利用者が減り、経費が収入を大きく上回る赤字だ。同社が線区ごとの収支を公表するのは初めてで、苦しい経営状況を伝えることで、バスへの転換なども含めた議論を沿線自治体と進めたい考えだ。

 仁坂吉伸知事は12日の記者会見で、区間存続を訴えた。JR西によると、新宮―白浜間の費用に対して収入がどれだけあるかを示す収支率は今回の30区間のなかでは4番目に高い。「経営が厳しいのは分かるが(収支)率はたいしたことがない。赤字額が大きいからと(廃線を)議論してはいけない」と指摘した。

 JR和歌山支社の担当者は「すぐに廃線の議論をするというのではなく、状況を共有したうえで、路線の活性化に向けた取り組みなど、いかに路線を残していけるか、地域に見合った交通体系について協議していきたい」としている。

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