木次線モチーフの市民劇 思い出と共に稽古に熱 29、30日公演

杉山匡史
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 存廃が話題になるJR木次線を盛り上げる市民参加の創作劇「鉄人56号」の公演が29、30日、島根県雲南市木次町のチェリヴァホールである。開業から1世紀を超える木次線を題材にするのは初めてで、脚本は市民から募った路線の思い出や逸話も参考に描く。

 題名は、かつて走っていた蒸気機関車「C56」から取った。物語は大正~令和と様々な年代の乗客が、C56が引っ張る同じ車両に乗り合わせたという設定だ。異なる社会状況や時代背景、実情も織り交ぜながら別れや出会いの思い出、歴史などを重ね合わせる。

 脚本・演出は数々の作品を手がけ、若手演出家コンクールで最優秀賞を受賞するなど高い評価を受ける県立高校教諭の亀尾佳宏さん(48)が担った。

 脚本の参考にしたのは、昨年10~12月に全国募集し、高校生から80代が寄せた118点の逸話だ。1950~70年代の高度成長期、集団就職で首都圏へ出る「金の卵」と呼ばれた中学卒業生らを見送ったり、大雪で列車が峠を越えられなかったり。通学で利用し、後に機関士になったエピソードや、出兵時の話もあった。

 演じるなどしているのは公募で集まった高校生から60代の計33人。2月から始まった稽古は平日は夜3時間、土日や祝日は8時間にも及ぶ。4月からは週4回にして本番に備えている。

 初めて舞台に立つのは2人。俳優にあこがれていた松江市在住の手塚光希(みき)さん(25)は、平成時代に生きた女性を演じる。東京都出身で木次線は一人旅で利用し、のんびりした時間を過ごすには最適と感じた。「観劇した人が木次線を考えるきっかけになれば」

 亀尾さんは寄せられた逸話などを読んで「地域の鉄道が持つ意味は時代によって違い、生活との結びつきもあることを改めて感じた」とし、「劇を通して100年の歴史でつながっていることを考え、知らない人には再発見にもなるようにしたい」と意気込む。

 公演は2008年に市民らが「雲南市演劇によるまちづくりプロジェクト実行委員会」を結成して始めた公募による創作市民劇の一つ。これまでに戦国時代の尼子氏に仕えた武将・山中鹿介(しかのすけ)や、「長崎の鐘」などの著作を通して平和を訴えた医師・永井隆博士ら県にまつわるテーマを中心に公演したが、木次線は11回目で初めてという。

 開演は29日が午後6時、30日が午後1時半。定員各200人。全席指定で一般2千円、高校生以下1千円(当日は500円増)。会場ロビーでは木次線祭りが催され、応援弁当や関連商品の販売などもある。

 問い合わせはチェリヴァホール(0854・42・1155)へ。

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 木次線は松江市・宍道駅と広島県庄原市・備後落合駅の81・9キロを結ぶ。1916(大正5)年、木炭輸送などのために私鉄の簸上(ひかみ)鉄道として開業し、その後、国鉄が買収して延伸。37年12月12日に八川―備後落合間の開通で山陽側と結ばれた。途中にJR西日本で唯一の「3段式スイッチバック」区間がある。

 利用者が減少している木次線を巡っては、JR側が観光トロッコ列車「奥出雲おろち号」の運行を2023年度で終了する一方、代替で観光列車「あめつち」の乗り入れなどを提案。沿線自治体などと観光活用で協議が続いている。

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