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　山梨県が富士急行に貸している山中湖畔の県有地をめぐる住民訴訟の判決が15日、甲府地裁（鈴木順子裁判長）で言い渡された。原告の「賃料が安すぎる」という訴えについては判断を示さず、すでに県が富士急行に適正賃料との差額支払いを求める裁判を起こしていることから、「訴えの利益がない」として原告の訴えを却下した。

　対象の県有地は山中湖の南側に広がり、総面積は約440ヘクタール。貸し付けは1927（昭和2）年から行われ、別荘地やゴルフ場が開発された。富士急行が支払う賃料は2020年時点で年額約3億3千万円。

　住民訴訟は南アルプス市の男性が、住民監査請求を棄却されたことを不服として17年に提訴した。県と富士急行が1997年に結んだ20年間の賃貸借契約（旧契約）と、2017年に結び直した新契約の二つを対象とし、新契約は違法・無効で、旧契約についても、県は賃料を増額する措置を怠ったと主張。適正賃料との差額を歴代の3知事や富士急行に請求することを県に求めた。

　県は当初は反論していたが、19年に就任した長崎幸太郎知事のもとで主張を大転換した。賃料が安すぎるので契約は違法・無効だと自ら主張。富士急行が賃借権の確認を求める訴訟を起こすと、反対に富士急行に損害賠償を求める訴訟（反訴）を提起した。

　住民訴訟の原告はこれに応じて訴えを変更。知事に関する請求は取り下げ、富士急行への請求額は4億7千万円から364億円へと大幅に増やした。この額は県が富士急行との訴訟で、「請求権がある」と主張しているのと同額だ。

　判決は、旧契約については、原告が当初は「無効」とは主張していなかったことから、裁判の途中で無効だと訴えることはできないと判断した。

　新契約については、県が富士急行との訴訟を起こしたので「住民訴訟の意義と目的は達せられている。原告の請求には訴えの利益がない」と判断した。その上で、賃料が適正かどうかは判断せずに訴えを門前払いした。

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　原告男性の弁護団は判決後、「県が富士急行に反訴したので訴えの利益がないと判断されたが、県が本当に損害賠償をすべて請求してくれるかは分からない。その点は不満だ」と報道陣に語った。「原告男性は、控訴するかは検討中だと言っている。県が適切に反訴を進めるかを注視し、納得いくものであればいいと思っている」と説明した。

　県と富士急行との裁判では、県は賃料の適正額を独自に算定し、2001年以降で364億円の損害賠償を富士急行に請求する権利があると主張。さしあたりその一部として93億円を請求している。原告の弁護団は「最初に住民訴訟を起こしていなければ今の流れはなかった」と話した。

　長崎幸太郎知事は「中身の判断は反訴に委ねられ、県と富士急行との訴訟に先送りされた。これらの訴訟で県の主張が認められるよう、引き続き全力で訴訟を進める」と語り、「正しい判断が下されるのは少し先に延びた。県と富士急行との『本体訴訟』で議論しようということだろう」という見方を示した。

　富士急行は、「訴えが却下されたのは当然だ。県との訴訟で、賃料は適切で契約は有効であることについて公正な判断を得られるよう最善を尽くす」とのコメントを発表した。（吉沢龍彦）

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　◆原告の訴えの変更が許されるか

　被告（県）が特段の異議を述べていないことからすると、許容される。

　◆住民監査請求が前置されているか

　旧契約（1997年締結）に関しては、知事が賃料の増額措置を怠ったことが住民監査請求の対象とされていたにすぎない。旧契約が無効であることを理由に補助参加人（富士急行）に対する損害賠償または不当利得返還の請求権行使の義務付けを求める部分は、適法な住民監査請求の前置があるとは認められない。

　◆出訴期間が順守されているか

　新契約（2017年締結）については、県が補助参加人に請求すべき金額の算定根拠が異なるにすぎない。出訴期間は順守されていると認められる。

　◆訴えの利益があるか

　原告と県は、旧契約及び新契約について、地方自治法に違反し無効であるとの同一の判断に至っている。補助参加人に請求すべき金額も364億円という同一の判断に至っている。

　県は補助参加人に対して反訴を提起し、364億円の請求権が存在することを明示し、その一部を請求しているのだから、住民訴訟の意義と目的はすでに達せられている。被告に補助参加人への請求の義務付けを訴える原告の請求には、訴えの利益がない。

　◆結論

　原告の請求は、旧契約の無効を理由とする部分は住民監査請求の前置が認められない上、全体については訴えの利益がない。