消えた鉄路、消えぬ追憶 津波で廃線、大船渡線を特集

星乃勇介
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 宮城県気仙沼市のタウン誌「浜らいん」が、2011年の東日本大震災で被災し、気仙沼から先が廃線になったJR大船渡線の特集号を出した。まもなく震災11年。レールははがされ、街並みは変わったが、この冊子には、在りし日の鉄路と、人々の生活が刻まれている。

 「浜らいん」は編集長の熊谷大海さん(64)と家族で取材し、2カ月に一度出している。元船乗りの視点を生かし、気仙沼や南三陸、その周辺地域の船や海の話題を中心に、文化や歴史、まちの情報を事細かに紹介している。

 JR大船渡線は一ノ関(岩手県一関市)から気仙沼を経由し、盛(さかり、同県大船渡市)を結ぶ全長105・7キロのローカル線で、曲がりくねった路線の形から「ドラゴンレール」の愛称がある。気仙沼~盛間43・7キロは、津波で大きな被害を受け、2020年4月に廃線となり、BRT(バス高速輸送システム)に変わった。

 熊谷さんは数年前に一度同線の特集を組んだが、その後の変化が気になっていた。震災11年を前にもう一度誌面で現状報告しようと、鉄道写真が好きな知人に持ちかけたところ、あっという間に話が広がり、沿線在住の鉄道ファンから膨大な写真が送られてきた。

 震災前の路線の様子はもちろん、津波で消えてしまったかつての街並みも交えた貴重なものばかり。「できるだけ載せよう」と、通常は60ページのところ、100ページに増やした。

 特集号では、四季折々の美しい景観の中を走る列車や、通勤通学の日常、特別なイベント列車、津波で消滅した駅を含む全駅の写真を掲載した。さらに敷設の歴史、廃線跡の探訪、わずかな期間だけ走った首都圏との直通急行のエピソードも盛り込み、住民もファンも楽しめる内容だ。

 歴史の暗部にも目を向けた。1932(昭和7)年、現在の岩手県陸前高田市矢作(やはぎ)の、同線の建設現場で起きた「矢作事件」だ。市史などによると、待遇改善を求めた朝鮮人労働者を日本人労働者が襲い、3人を殺害した。地元でも覚えている人は少ないが「同線の成り立ちを語る上では外せない」と、郷土史に詳しい知人に寄稿を頼んだ。

 11年前のあの日、熊谷さんは南三陸町の海のそばで取材中だった。間一髪で助かり、家も家族も無事だったが、まちは壊滅した。

 「浜らいん」は10年秋に第1号を出したばかりだった。「もうダメだ」と落胆し、読み物として在庫を避難所で配ったところ、喜ばれた。市民は、自分のまちの情報に飢えているのだと知った。その思いに応えようと、書き続けた。

 熊谷さんも幼い頃、母にせがんで年に何度か、気仙沼から盛まで乗った。家族でラーメンを食べて戻る、その小さな旅の楽しかった記憶が忘れられない。レールは消えたが、私たちの心の中にはいまも走っている。そんな思いから、本の題はこう付けた。線路は続くよ、いつまでも。

 特集号は1冊1100円。残りは350部ほど。問い合わせは編集室(みなと倶楽部(くらぶ)、0226・25・3777)。(星乃勇介)

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