LRT事業費、大幅超過 試算の文書公開に疑念 宇都宮

中村尚徳
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 【栃木】宇都宮市は1月、JR宇都宮駅東側で進める次世代型路面電車(LRT)事業費が、予定より191億円膨らむと公表した。芳賀町区間の増額と合わせ総額684億円になる。公表の数カ月前、朝日新聞は市が2年前から同規模の増額を試算していた文書を入手。裏付けのため市に情報公開請求を続け、3月に同一の文書が開示された。

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 文書(A4判)は、市LRT整備課が2018年12月20日付で作成した。概算事業費が「公表済みより約172億円増加」とし、「増加により費用便益(比)が1以下になることが想定」「費用便益の確保は困難」と記されていた。

 費用便益比とは公共事業などの費用対効果をはかる指標の一つ。「1」を超えれば事業には効果があるとされる。しかし、予算執行権を持つ佐藤栄一市長は「報告を受けていなかった」と会見で答えた。

 今月22日、改めて佐藤市長に聞いた。「工事着手後まもない段階。(増額は)様々な課題を抽出する中で数字を重ねただけで、精度の高いものではない。精査されてから私に上げることになっていた、と聞いている。(知っていたのは)建設部長以下と思う」。佐藤市長は説明した。

 ただ、文書では「精査」という言葉を使っている。超過額は1月に公表した増額の90・05%。文書の別紙(A3判)が挙げた増額要因をみると、「軟弱地盤が判明」「地下埋設物などの移設」「用地買収面積の増加」「車両基地構造の見直し」「運賃収受システム導入」など1月公表時の増額要因と重なる。

 駅東側の市内区間(約12キロ)事業費は、14年度にも260億円から1・6倍の412億円に増額されたことがある。この2年後の市長選で佐藤市長は4選を果たしたものの、LRT反対を訴える新顔候補に6206票差に迫られた。文書は「辛勝」の2年後に作成されていた。

 朝日新聞には昨年11月の宇都宮市長選前、内情を知る関係者からの「告発」が寄せられた。「200億円近い増額が市長選後に公表されることになっている。問題ではないか」。取材を進め、問題の文書を入手した。

 文書には「超過額が大きいことから対外的な説明が困難。説明手法の検討や公表のタイミングをはかる必要がある」とあった。さらに「工事の進捗(しんちょく)状況や選挙時期(2019年4月の市議選、20年11月の市長選)、反対派の動向等を見極めながら公表のタイミングを検討」と「告発」を裏付ける記載もあった。

 文書は県議会や市議会で問題になり、市民からも市長選の公平性・公正性を疑問視する声が上がった。憲法は「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」(第15条第2項)と定める。事業中断を恐れる担当部局の「忖度(そんたく)」が働いたのか。佐藤市長にただした。

 「説明がつかない段階での数字は公表できない。忖度なく事務的に作業が進められている。選挙が歪(ゆが)められたとは思わない」

 その一方で、佐藤市長は「市民の誤解を招くような文書の作成はしてはならない。(一連の問題には)改善すべき点はある」との認識を示した。小さな誤解や疑念は、全体の信頼性を損ねることにつながる。宇都宮市には自己修正する力が問われている。(中村尚徳)

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