JR東海「落ち度なかった」 リニア工事、2人死傷事故で

今泉奏 磯部征紀
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 リニア中央新幹線の瀬戸トンネル(岐阜県中津川市)の工事で2人が死傷した事故をめぐり、JR東海は27日、再発防止策を発表した。作業手順書の記載が明確でなく、国のガイドラインへの対応が不十分だったと結論づけた。工事の発注者としては「落ち度がなかった」と説明した。

 工事は奥村組など3社でつくる共同企業体(奥村組JV)が担当し、その下請け業者が作業していた。事故は10月27日夜に発生。トンネル先端の発破後、現場で規定する「立ち入り禁止範囲」に作業員が入り、2人を岩石が直撃した。

 国のガイドラインでは、崩落事故を防ぐために「手順を明らかにした作業手順書を作成すること」と指示している。現場では口頭で「立ち入り禁止範囲」を規定していたが、手順書に明確に書いていなかった。手順書などをもとに現場で常時監視するはずの監視責任者も対応が不十分だった。

 一方、手順書は奥村組JVが作成するもので、JR東海には「落ち度はなかった」(同社担当者)と説明。その理由を「監督業務として現地の確認や打ち合わせは適切に進めていた。奥村組JVの対応が不十分だった」と述べた。

 再発防止策には、防護マットの設置などの安全対策のほか、現場監視の強化をあげた。今後はJR東海と工事業者からなる中央新幹線安全推進協議会で、対策を共有するという。

 今回の崩落は「切羽(きりは)」と呼ばれるトンネルの先端部で発生。切羽は土砂や岩盤が崩れる「肌落ち」による労働災害が起きやすい。厚生労働省は2016年に山岳トンネル工事で切羽での肌落ち防止のためのガイドラインを策定し、18年に改正している。

 ガイドラインでは、▽切羽への立ち入りは原則禁止で真に必要な場合のみ▽切羽での作業中に切羽を常時監視する「切羽監視責任者」を置くこと▽監視や退避方法を含め肌落ち防止のための計画や手順書を作成すること――などを求めている。

 発破のための装薬作業など切羽に近づいて作業せざるを得ない場合もあるが、そうした作業も遠隔化や機械化を進めるよう求めている。

 ガイドラインは切羽を「掘削の最先端をいい、地山が露出している領域全体」などと定義。JR東海の「切羽直下には立ち入っていない」という説明に、厚労省は「調査中なのでコメントできない」としている。

 ガイドラインは違反した場合の罰則はないが改善措置や再発防止を講じるよう求めるなど、行政指導の対象となる可能性はある。

 谷本親伯(ちかおさ)・大阪大名誉教授(トンネル工学)の話

 発破後に作業員が禁止範囲に入るといった初歩的なミスが原因だ。トンネル作業の基本を無視しており、作業員全体の熟練度が疑われる。未熟な作業員を使用せざるをえないことが問われるべきで、発注者と受注者の双方が協議して改善をはからなければならない。同様の崩落事故が起きているのはゆゆしき事態だ。一過性の調査ではなく、トンネル事故も国が常設の独立した調査委員会をつくって調査し、事例を蓄積して再発防止につなげるべきだ。(今泉奏、磯部征紀)

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