コロナと公共交通「危機は10年早まった」 両備グループ代表

吉川喬
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 「栄養失調のうえに新型コロナという『大病』に冒されたような状態」。中国地方を中心に路線バスやフェリーを運行する両備グループ(岡山市)の小嶋光信代表(76)は、公共交通の現状をこう表現する。

 人口減などでもともと利用者数は下り坂。たとえ売り上げが半分になっても「じゃあ電車やバスを半分にちぎって、運行本数を半分にとはいかない」。それでも全国の事業者は、交通弱者を作らないよう赤字路線でもおおむね維持してきた、と言う。

 だがコロナ禍で、観光事業や高速バスなど黒字だったものまで赤字に。年1~2%だった利用機会の減り幅が、この1年余りは30%以上に広がったという。「危機的状態が10年早く進んでしまった」。コロナが終息しても、簡単に元に戻るものではない。

 事業者の苦悩の深さは、両備グループなどでつくる「地域公共交通総合研究所」が行い、全国の123社が回答した調査で表れた。今年3月時点の状況が続いた場合、新たな補助や支援無しで経営をどの程度維持できるか尋ねると、「1年以内」が46%。またコロナ禍で抱えた負債の返済期間は、64%が「10年以上(『自力返済困難』を含む)」と答えた。

 小嶋代表は「公共交通のあり方や行政の支援について国民を巻き込んだ議論を今しなければ、事業者は路線廃止へ向かう」と確信する。廃止が招くのはさらなる人口減少だ。高齢者は家に閉じこもりがちになるだろう。「地方創生の第一は、地域の生活交通の維持のはずだ」

 「たま駅長」がブームとなった和歌山電鉄貴志川線や、中国バス(広島県)の再生を手掛けた。その経験から、マイカー利用者らに課税する「交通目的税」の導入を提言する。公共交通事業者の支援などに充てるだけでなく、公共交通の利用を促し、温室効果ガス削減の観点から環境面にもメリットがあるという。

 また利用者が見込めない地域は、鉄路や車両などは行政が設置・所有し、事業者は運行経費だけを負担する「公設民営」をさらに広げるのが重要だと訴える。行政と事業者の役割を明確に分け、行政は経営方針に口を挟まない仕組みをつくる。そうすれば、事業者は経営努力次第で利益を出しやすくなる。好循環にもつながる――。

 「危険水域」の公共交通。「国がしっかりと対応すべき場面だ」と繰り返し訴えた。(吉川喬)

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