音楽奏でる道、群馬は最多の10カ所 旅気分盛り上げ
日本屈指の名湯、群馬県の草津温泉へと車を走らせていた。突然、大音量の「正調草津節」が聞こえてきた。
路面の溝によって走行音が曲に聞こえる音響道路だ。「メロディーライン」とも呼ばれるこの道路、県内には10カ所=表=もある。施工業者などによると、5カ所の2位北海道を引き離し、全国一の多さを誇る。
県道路管理課に尋ねてみた。10カ所ある音響道路の施工時期は2008年から12年に集中している。
「DC(ディスティネーションキャンペーン)の関係だったからですね」と担当者。DCとはJR各社や自治体による観光キャンペーンで、ちょうど11年7月から9月には群馬が対象だった。県はこの数年前から、県内観光を盛り上げる施策を考えており、そこで生まれた企画だったのだという。
音響道路に適した場所は「まっすぐで、平らで、人家から離れた場所」。走った時に音がきれいに鳴るための条件だという。車が通れば音がするので、騒音被害にならないよう人里離れたところがよい。さらに、まとまったメロディーを鳴らすためには1カ所200メートルから300メートルくらいは必要だ。当時、県内の市町村にこうした「適地」の選定を呼びかけ、対象地を調整していったという。
肝心な音楽は、県が素案を考え、地元で選定した。観光のための施策なので、道の行く先にある観光地との結びつきを大切にした選曲になっている。
中之条町の四万温泉ならスタジオジブリのアニメ映画「千と千尋の神隠し」の主題歌「いつも何度でも」。「油屋」のモデルともされる老舗旅館があるためだ。旅の途中にこんな音の「おもてなし」があると、確かに気分が上がる。
全国に40カ所以上ある音響道路だが、北関東では、群馬以外には設置されていない。
栃木県道路保全課によると、10年以上前に国道293号で、運転者に下り坂を意識させるため、車が走ると音がする舗装をしたが、「今はもう路面が削れて、音がするかどうか」で、いわゆる音響道路はない。既存の道路の維持管理で手いっぱいで、音響道路については検討することもないという。茨城県も造っていなかった。
実は群馬には、あと三つ「失われた音響道路」がある。
施工業者によると、一つは沼田市を囲むように走る利根沼田望郷ラインに07年に完成した「夏の思い出」。当時の舗装は耐久性が低く、溝がつぶれたため廃止した。二つ目も「夏の思い出」で、日本最大の山岳湿原、尾瀬国立公園へと向かう片品村の国道401号に10年に造ったが、周辺から音がうるさいと苦情があり廃止。三つ目は、12年に施工された長野原町北軽井沢の「おお牧場はみどり」。浅間山の裾野に広がる牧場をイメージしたものだったが、こちらも500メートルほど離れた別荘地から音への苦情があり、完成から1年あまりで撤去となっている。
ちなみに、群馬県は新たな音響道路をつくる予定はないという。場所の条件が難しいのが問題で、「観光施策としても予定はない」と担当者はつれない。今のところ路面に問題はないが、ひび割れや陥没が起きた場合、元通りに補修するのか、普通の舗装道路にするのかは、その時に検討するという。とはいえ、10カ所は断トツで、しばらく日本一の状態は続きそうだ。
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