旧校舎でカフェ「町おこしになれば」73歳新米マスター

西岡矩毅
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 世界遺産高野山のふもとで「秘境駅」とも呼ばれる南海電鉄高野線の紀伊神谷駅(和歌山県高野町)。そこから歩いて15分のところにある、旧小学校の校舎に7月上旬、カフェができる。73歳の地元の男性が「校舎をにぎやかにしたい」と新米マスターとなってコーヒーを振る舞う。

 旧白藤小学校(同町細川)の職員室を改装し、7月10日にオープン予定のカフェ「Coffee しらふじ」でコーヒーを入れるのは刀祢尋一さん(73)。苦めのブラックで目覚め、一日に5~6杯飲むほどのコーヒー好きだが、開店を目前にして「自分が入れたコーヒーが全然おいしく感じなくなった。お客さんがおいしいと言ってくれるまで怖い」。笑いながらも、豆の挽(ひ)き方やドリップの仕方など、日々、練習している。

 刀祢さんが高野町神谷地区に引っ越してきたのは、中学2年の時だった。当時、地区には約20軒の世帯があったというが、いまは8軒ほどになった。2008年3月、白藤小学校が廃校になった。8年前には、妻を亡くした。「一人だと寂しいね。この学校も校舎だけは残していきたい」と、5年前にボランティア団体「白藤の会」を立ち上げ、いつでも外部に貸し出しできるよう校舎の管理を担ってきた。今度は「多くの人に来てもらい、校舎と町に、にぎわいと活気を取り戻したい」と思うようになり、カフェを始めることにした。

 校舎のすぐ前は、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道(さんけいみち)」に登録されている「京大坂道(きょうおおさかみち)不動坂」に続く高野参詣道になっていて、ハイキングを楽しむ人が行き交う。公衆トイレはあるものの、人が集まるような空間はなかった。

 最寄り駅は、紀伊神谷駅。南海電鉄全100駅の中で、一日平均乗降人員(2019年度)が13人で最も少ない。南海電鉄ツーリズム事業部の担当者は「地元の学生やハイキングの人が乗る程度。まさに秘境駅。電車好きの人も来ますね」と話す。

 コーヒーを自分で焙煎(ばいせん)するなど本格的に始めたのは、2年ほど前。きっかけは、2017年に同校であったイベントだった。大阪府などのコーヒー愛好家らでつくる「日本コーヒーフェスティバル実行委員会」がコーヒーを通じた地域活性化などを目指して主催した。コーヒーを楽しみに人が集まり、イベントの2日間だけ、にぎわいが戻った。そんな空間で、実行委代表理事の川久保彬雅さん(37)の入れたコーヒーを飲み、「こんなにおいしかったっけ」と感じた。川久保さんからも「森の中で、きれいな空気とコーヒーは格別。ここでコーヒー屋をやった方がいい」と勧められた。

 刀祢さんは、「自分のコーヒーを飲みに、誰かが来てくれることを思うと楽しみが増える。これで町おこしになればな」と開店を待ち望む。

 営業は、土日祝日午前9時から午後5時ごろまで。注文を受けてから、挽いた入れたてのコーヒー(1杯400円~)が楽しめる。問い合わせは刀祢さん(090・1441・9908)へ。7月9日まで、開業資金をクラウドファンディングhttps://readyfor.jp/projects/coffeeshirafuji別ウインドウで開きます)で募っている。(西岡矩毅)

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