「公共交通維持へ議論を」 ことでん社長が語る実情

聞き手・福家司
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 【香川】高松琴平電気鉄道(ことでん、本社・高松市)の真鍋康正社長(44)が朝日新聞社のインタビューに応じた。新型コロナウイルスの影響で続く厳しい経営の実情を語るとともに、地域の公共交通を民間企業だけで担うことについて、議論が必要との見方を示した。

 ――コロナ禍で全国の交通事業者は大きな打撃を受けています。

 昨年度の鉄道の減収額を9億円と予想していたが、実際は8億円弱だった。それでも固定費の割合の高い鉄道業界で、3割も売上高が減少するのは、まさに存続の危機。役員・幹部報酬から電気代まで徹底してコストを削減した。赤字にはなったが、何とかリストラをせずに1年間は乗り越えることができた。

 ――来期の業績予想も赤字です。

 乗客の増え方はわからない。感染者が増えると、また町が冷え込んで、人が動かなくなるだろう。コロナで人々のライフスタイルが変わった。今も大きな宴会はないし、ビジネスマンの出張は激減している。高齢者の移動、イベントやインバウンドなどの観光需要も減っている。終息しても、緩やかにしか戻らないだろう。

 ――コロナ禍で公共交通の維持についての議論が20年早まったという見方もあります。

 地方で電車に乗っているのは子ども、学生、高齢者、ハンディのある方、車を持てない方、免許を持たない外国人などだ。交通面での弱者を支えていこうと使命感をもってやってきたが、その人たちの運賃だけで支えるのは限界にきている。公共交通の公共性を誰が担うのか、という課題はコロナ禍の前から顕在化していたが、議論を先送りしていただけだ。

 ――全国では上下分離など新たな経営形態についても議論が始まっています。

 地方の公共交通を民間企業だけでは支えきれないとすれば、経営形態よりも、まず市民を巻き込んだ議論をしなければならない。交通弱者の負担につながる運賃値上げによって維持していくのは、できるだけ避けたい。個人的には、高齢者の運賃は福祉予算から、学生の通学定期代は教育予算から公的に支出すべきだ、と考えている。

 ――そうした中、琴平線の新駅・伏石駅が開業し、減便していたダイヤも一部、元に戻しました。

 高松市とともに電車とバスによる公共交通網を作っていくうえで、戦略的に重要な駅だ。コロナ禍の開業となったが、人口の増えている地域でもあり、利用者には好評をいただいている。今年後半に駅前のバスターミナルが開業すれば、路線バス、高速バスとの接続もよくなる。なるべく車がなくても行きたい場所に行けるまちづくりを進めていきたい。

 減便については、特に飲食店関係者から元に戻してほしいとの要望が強い。ただ、夜に人が動いていないので、今はまだ走らせれば走らせるだけ赤字になる。

 ――仏生山―太田間にも新駅の計画があり、新駅までの複線化も進めるのですね。

 二つ目の新駅はコロナ禍で行政も苦しいので遅れるかもしれないが、市の支援をいただきながら複線化とともに進めていきたい。当社の乗客数は2012年ごろから増えてきて、近年は全国の地方鉄道でも鉄道の利益はトップクラスだった。コロナが終息しても人口減による利用者の減少が予想される。沿線人口をできるだけ減らさないよう、ユーザー(利用者)とのコミュニケーションを大切にしていきたい。(聞き手・福家司)

     ◇

 高松琴平電気鉄道(ことでん、本社・高松市)は18日、2021年3月期決算を発表した。新型コロナウイルスの影響が長期化して利用者が減少し、当期純損益は1億400万円の赤字となり、2年ぶりの赤字決算となった。税制面などの優遇措置を受けられる中小企業扱いとなるため、資本金を減資する方針という。

 売上高に当たる営業収益は、25・9%減の28億8100万円。人件費の削減や施設修繕の先送りなどで営業費用を圧縮したが、営業損益は1億9500万円の赤字となった。鉄道の利用者数は22・7%減の1152万4千人、売上高は26・6%減の21億3700万円だった。

 一方、伏石駅の開業に伴う駅舎建設や複線化費用が特別損失(29億700万円)に、国や県、市から受けた補助金や雇用調整助成金などが特別利益(30億3600万円)に計上された。資本金は1億6千万円減の9千万円とする。

 22年3月期の業績予想では、鉄道の売上高を今期比14・9%増の24億5500万円と想定。ただ、先送りした修繕費など営業費用もかさむ上、今期あった国や自治体からの支援が受けられるかどうか不透明で、赤字は今期より拡大し、1億7千万円を見込む。

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