戦後建造物で滋賀県初 信楽高原鉄道の橋脚、重文指定へ

筒井次郎
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 滋賀県甲賀市にある信楽高原鉄道(SKR)の橋梁(きょうりょう)が、重要文化財に指定される見通しになった。国の文化審議会が21日、文部科学相に答申した。戦後の建造物の指定は県内初。近江八幡市長命寺(ちょうめいじ)の2棟も指定見通しで、県内の建造物の重要文化財(国宝を含む)は計188件となる。(筒井次郎)

 乗降客数が少なく、「秘境駅」とも呼ばれるSKR玉桂寺(ぎょくけいじ)前駅(甲賀市信楽町勅旨〈ちょくし〉)。この200メートル北、田園の中に「第一大戸川(だいどがわ)橋梁」はひっそりたたずむ。大戸川に架かる長さ31メートル、幅4メートルの現役の鉄道橋だ。

 旧国鉄信楽線(現SKR)の旧橋が1953(昭和28)年に豪雨で流失したため、翌54年に当時最先端だったプレストレストコンクリート(PC)の技術を用いて造られた。

 「国鉄が蓄積したコンクリート技術の粋を集めて建設した国内初のPC橋。戦後のコンクリート研究の発展にも寄与している」と評価された。土木分野の建造物(土木遺産)としても県内初の重要文化財となる。

 PCは、コンクリート内部に仕込んだ鋼線に引っ張り力を与え、その復元力を利用してコンクリートにあらかじめ圧縮力を与える。高強度のコンクリート構造物を実現する技術だ。

 今回の橋梁は、欧州で広まったこの技術に詳しいフランス人技師が設計し、国鉄の大阪工事事務所にいた仁杉巌(いわお)氏(2015年没)が工事を進めた。仁杉氏は後に新幹線建設に携わり、国鉄総裁に就く人物だ。

 鉄製の旧橋には橋脚があったが、高強度のこの橋梁は橋脚が不要となり、増水時に備えることができた。PCの技術は長い橋の建設を可能にし、現在も多くの鉄道橋などに用いられている。

 また、今回の橋梁と同じ断面の構造物(標準桁〈けた〉、長さ約2メートル)が、そばに2個置かれている。経年劣化を検証するもので、最近では07年の調査でも高い強度が確認された。これも文化財に含まれる。

 橋脚を所有する甲賀市の担当者は「信楽焼や国史跡の紫香楽宮跡(しがらきのみやあと)、鉄道事業と連携して文化財の活用を進めたい」と話した。

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 長命寺(近江八幡市長命寺町)で重要文化財に指定される2棟は、三仏堂(さんぶつどう)と護法権現社(ごほうごんげんしゃ)拝殿。三仏堂は急勾配の檜皮(ひわだ)ぶき屋根が特徴で、2棟は渡り廊下でつながっている。室町後期~桃山時代(16世紀後半)に建てられた。

 長命寺は、琵琶湖を見下ろす山頂近くにある西国三十三所第31番札所の古寺。諸堂は室町後期の1516年に戦乱で焼失した後、桃山時代までに再建された。

 今回の2棟は「兵火からの復興を示し、観音霊場の巡礼寺院を構成する建築として貴重」と評価された。

 境内の本堂や護摩堂、三重塔、鐘楼は重要文化財で、今回の指定で主な建物6棟がすべて国指定の文化財となる。6棟は斜面に沿って東西に並ぶ配置で、今回の2棟は中央にある本堂の西側に位置する。

 武内健斗副住職は「長い間守ってきた先人に敬意を払いつつ、今回の指定に気持ちを新たにし、後世に伝えていきたい」と話した。

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