「いさ鉄」も開業5周年

三木一哉
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 北海道新幹線の開業に伴い、旧JR江差線の運行を引き継いだ第三セクター「道南いさりび鉄道」が開業5周年を迎えた。観光列車などで注目される一方、沿線人口の減少で利用者は予想より早く減っている。経営安定のため、いかに地元の人の利用を増やすかが課題だ。

 道南いさりび鉄道は2016年から、北海道新幹線の開業でJR北海道から経営が分離された旧JR江差線の五稜郭~木古内間(37・8キロ)を運行している。道や沿線の函館市北斗市、木古内町のほか、貨物列車を走らせるJR貨物、大口の荷主であるホクレン農業協同組合連合会が出資している。

 人気なのはJR時代にはなかった観光列車だ。発足時に買い受けたディーゼルカー9両のうち1両を、食事付き観光列車「ながまれ海峡号」に転用。5~10月の週末の運転で、地域の食材の提供や、イカ漁の集魚灯をつけた漁船が浮かぶ夜の海などが好評で、予約が取りにくいほどの人気だ。

 車内を彩る大漁旗などの装飾は社員総出で準備し、途中駅では商店街の人たちがおつまみやおやつを駅売りするといった素朴なサービスが受けている。鉄道旅行の企画の面白さを競う交通新聞社主催の「鉄旅オブザイヤー」では、16年度のグランプリに輝いた。

 住民の足にとどまらない積極的な取り組みは、沿線人口の減少に悩むなかで生まれた。沿線人口は開業直前の15年には31万7千人だったが、10年後には27万9千人に減るとされている。これに伴い1日の利用者数も2148人から約1800人に減ると見込んでいたが、鉄道離れは見通しよりも早く進み、昨年度の時点でこの水準に到達してしまった。

 同社は収入の約8割をJR貨物からの線路使用料に依存しているが、毎年約2億円の赤字が出るため、道や沿線自治体の補助金で埋め合わせてきた。車両は旧国鉄時代の車齢40年以上のもので、いずれ更新が課題になる。交通系ICカードの導入などキャッシュレス化も課題だが、設備投資に着手できていない。

 こうしたなかで、同社が期待するのは沿線住民の利用の底上げだ。川越英雄社長は「沿線でもまだ乗ったことがない人は多いので、車窓の風景をまず地元の人たちに楽しんでほしい。沿線住民が年1度乗るだけでも30万人の利用増になる」と訴える。

 同社は地元の人の利用を促すため、通常は片道980円の五稜郭~木古内間を乗り放題で使える1日乗車券を700円で売り出した。鉄道は環境に優しく、飲酒を楽しんだ後の交通手段としても使える。川越社長は「伸びしろはある。列車旅の魅力を伝えながら、近隣都市間の交流を通した地域活性化にも貢献したい」と語る。(三木一哉)

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 北海道教育大札幌校・武田泉准教授(地域交通政策)の話 道南いさりび鉄道が厳しい経営条件の下で、観光列車などで存在感を示して頑張ってきた点は評価したい。一方で、沿線自治体の「地域のために鉄道を生かそう」という意欲は、必ずしも高くはなかったのではないか。

 交通系ICカードの導入や函館市内の新駅設置、木古内駅での新幹線との接続改善など、実現していれば地域と「ウィンウィン」になれたことは色々とあった。だが行政側にこれといった提案も行動もないまま、5年が経過してしまったという印象だ。

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