日高線鵡川―様似間廃止、転換バス運行開始 残る2線区

西川祥一 斎藤徹
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 JR日高線の鵡川―様似間が1日、廃止となり、84年の歴史に幕を下ろした。同時に、代わりの公共交通を担う「転換バス」の運行がスタート。えりも―苫小牧間の直行便が新設されるなど利便性が上がった一方で、赤字が膨らみ「地域の足」の維持を危ぶむ声が出ている。JR北海道は10年後の経営自立に向け、廃線方針線区のうち残る2線区の沿線自治体に、早期の決断を迫る方針だ。(西川祥一、斎藤徹)

 1日午前7時20分、新ひだか町の旧静内駅前のバスターミナル。えりも町と苫小牧市を結ぶ直行バス「特急とまも号」の初便が入ってきた。

 ターミナルで開かれた記念式典には、沿線の7町長やJR北海道の綿貫泰之副社長らが出席した。日高町村会長としてJR北との交渉にあたった様似町の坂下一幸町長は「地元住民の強い願いがかなわず廃止を迎えたのは断腸の思いだが、地域の広域公共交通がよりよく、真に便利になるための新しいスタート」とあいさつ。「バスが長く持続するよう、何度も、何度も、何度も利用していただきたい」と住民に呼びかけた。

 「スタートしてひとまず安心した。これからは利用促進策を考えないといけない」。転換バスを運行する「日高地域広域公共交通確保対策協議会」の会長を務める新ひだか町の大野克之町長は表情を引き締める。7町でつくる協議会は今後、採算を踏まえて路線や本数を見直すとしている。

 初日から厳しい見通しを口にしなければならないのは、年間1億円近い赤字が見込まれるからだ。これに対し、JR北がバス運行のために協議会に払う支援金は20億円。バスの購入費などを含めれば、18年間分の赤字の補塡(ほてん)でしかない形だ。協議会は半年ごとに利用状況を調査するなどして対策に生かす方針だ。「20億円を1日でも長く持たせるために見直しを続ける」(事務局)

 転換バスの運行で利便性は高まった。路線が広がり、えりも―苫小牧間の直行バスを毎日1往復運行。苫小牧市のショッピングモールや総合病院で停車する。運賃もJR北の代行バスより4割ほど安くなった。高校生の通学時間帯のバスを6便増やして校内に乗り入れたり、停留所を10カ所増やしたり、低床バスを導入したりした。

 一方、利用者の中心となる高校生の通学定期代は倍近くに上がった。1カ月定期で新ひだか町静内―富川高校間は、代行バスで1万2630円だったのが2万6400円に、様似町から浦河高校が9040円が1万8360円になる。JR北では通学定期の割引率が6~8割だったが、転換バスでは4割にとどまるのが原因だ。

 2~3年生にはJR北が値上がり分を補塡するが、新1年生は対象外だ。沿線7町には補助制度があるが、自分の住む町以外の高校へ通う場合には適用されないケースがあるなど、課題も残る。

 JR北海道が「単独では維持困難」として、廃止・バス転換方針の5線区を公表してから4年。日高線鵡川―様似間は、石勝線新夕張―夕張間(2019年4月)、札沼線北海道医療大学―新十津川間(20年5月)に続く3例目の廃線区となった。31年度からの経営自立をめざすJR北は残る2線区についても、沿線自治体との協議を加速する方針だ。

 「自然災害に乗じた路線廃止は許されない」。3月23日、札幌市内で労働団体関係者ら約70人が、根室線富良野―新得間の災害復旧と存続を求める集会を開いた。同区間の一部は、16年8月の台風被害で不通になってから、復旧されることなく今日に至っている。

 集会では「国は国鉄民営化の失敗を認め、責任をもって維持すべきだ」などと声が上がった。だが国もJR北も、廃線方針の線区は眼中にないかのようにみえる。赤羽一嘉・国土交通相は昨年10月、富良野―新得間の線路や駅を視察し、沿線首長と意見交換。「JR北とも議論をしながらよりよい結論を探っていきたい」と報道陣に語った。

 だが、今年1月の国と道、JR北によるオンライン会議では、JR北が国や自治体の支援を受けて存続する方針の釧網線など「黄色8線区」の話題に終始した。赤羽国交相は「JR北が黄色線区の経営を歯を食いしばって継続していただいていることに感謝したい」と述べ、21年度から3年間で1302億円を支援することを表明した。だが、廃止方針の2線区への言及は、一切なかった。

 支援の前提となる法律は3月26日に国会で成立。JR北の島田修社長は「地域の皆様と一層の連携強化を図り、アクションプランを推進する」との談話を出した。アクションプランとは、黄色線区を対象にした利用促進やコスト削減などの経営改善策のことだ。

 人口が減り続ける北海道の地方にとって、もはや鉄道はまちづくりの中心ではなくなっている。この厳しい現実を踏まえ、島田社長は「『あれもこれも』ではなく、『あれかこれか』の選択をしていただきたい」と迫り、バス転換の早期決断を沿線自治体に迫る。

 〈日高線鵡川―様似間の廃止とバス転換〉 太平洋沿岸を走る日高線の全区間は苫小牧―様似(146・5キロ)。2015年1月、暴風雪による高波被害を受け鵡川―様似間(116キロ)が不通になり、代行バスが運行された。JR北は多額の復旧保全費がかかることや乗客激減を理由に16年11月、廃線・バス転換方針を発表。沿線の日高、平取、新冠、新ひだか、浦河、様似、えりもの7町と協議を続け、昨年10月、JR北がバスの運行費20億円、地域振興費5億円の支援金を出することで最終合意した。残る苫小牧―鵡川(30・5キロ)については、JR北は国や沿線自治体の支援を受け存続させる方針。

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