LRT増額予算案可決、住民投票求める陳情は不採択

中村尚徳
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 【栃木】LRT(次世代型路面電車)の事業費増額を審議した宇都宮市議会の3月定例会が閉会した。会期中、市が約2年前に200億円近い大幅な増額を試算した内部文書の存在が明らかになり、市民連合や共産など6会派が予算案に強く反対したが、自民、公明などが賛成し、増額を盛り込んだ新年度予算案が可決された。

 予算案採決に先立つ討論で、自公両党の会派はLRT事業推進の立場から賛成した。これに対し、3会派が、内部文書を根拠に市の事業管理のあり方や公表時期について疑問を示し、「責任の所在が明確になっていない」「市民の理解が得られていない」などと反対した。

 LRT事業を巡る住民投票条例の制定や利用者数の再調査などを求める市民からの陳情は、いずれも不採択となった。

 市が4月から委託を決めていた学童保育(子どもの家)運営の民間指定管理者をめぐり、常任委員会が委託費を盛り込んだ予算案を否決した問題は、市が問題となった1社の指定管理を取り消し、予算案を修正した。これを受け、常任委で否決した自民、公明が賛成に転じた。

 一方、常任委で賛成した市民連合などは反対に回った。「新風うつのみや」の市議は「(業者や指導員との)市のコミュニケーション不足が混乱の原因。現場に寄り添う支援ができていなかった」と市の対応を批判した。

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 LRT事業費の大幅超過が、2年以上も伏せられていた疑いが強まった。昨秋の市長選の公正さを揺るがしかねない内容の記載もあった。そうした内部文書が明るみに出ても、宇都宮市は説明責任を果たさず、市民は置き去りにされたまま3月定例会は幕を下ろした。

 朝日新聞が入手した文書は、2018年12月20日に作成され、従来の公表額より約172億円膨らむ試算が記載されていた。事業の費用対効果についても疑問視し、市長選などを挙げて「公表のタイミングをはかる必要がある」と書かれていた。取材で得た「市長選後の公表は既定方針」との情報を裏付ける文書だった。

 市は当初、文書の存在を認めなかった。しかし、記者の情報公開請求により、日付、作成部署、内容が同一の文書が開示された。記されていた試算額は1月に公表した増額191億円の90%。増額要因も1月公表時の説明とほぼ一致している。元市職員の市議は、試算の精度が極めて高いと指摘し、公表の時期やあり方に不信感を示した。

 昨秋の市長選はLRTが大きな争点だった。新顔候補が膨大な事業費などを問題視し、計画の凍結を訴えた。14年度から変更されずに来た事業費が200億円近くも膨らむという試算は、選挙結果に影響を与えかねない要素だった。

 市議会で佐藤栄一市長は増額の試算は知らなかったとし、「選挙の公正さはゆがめられなかった」と答弁した。だが、それが市民に通用するだろうか。なぜ、最高責任者が把握できなかったのか。担当部署が「忖度(そんたく)」したのか。LRTを公共交通の要とし、超高齢化社会に欠かせぬと位置づけるなら、正々堂々と市民に説明するのが常道だろう。

 憲法は、地方自治の本旨(本来の趣旨)について国から自立した「団体自治」とともに、住民の参加と同意に基づいて進める「住民自治」をうたっている。その基礎となる選挙は有権者が身近な地方政治に参加できる数少ない機会である。都合の悪い事実が伏せられれば選挙の公正は成り立たず、政策全体の信用性、中立性にも影響を及ぼす。

 LRT問題は宇都宮市の「住民自治」が機能していないことを浮き彫りにした。いま、その回復が求められている。(中村尚徳)

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