車イス利用者JR乗車に予約 「自由の制限」の声
長崎県内のJR九州37駅のうち無人駅は20駅。さらに昨年春から、有人駅の一部で駅員が不在となる時間帯ができた。車イス利用者らがJRを利用する際、介助のため「予約」を求められるケースが増えている。人繰りの難しさを訴えるJR側と、「移動の自由」の根幹に関わる問題と訴える当事者たち。バリアフリーのあり方が問われている。
同県長与町の管田多津子さん(40)は先天性二分脊椎(せきつい)症の影響で長時間歩くのが難しく、手動の車イスに乗る。仕事や買い物のため、長崎市の中心部に向かうときは、最寄りのJR長与駅を利用する。乗降の際には列車とホームの間にスロープをかけてもらう。
長与駅など県内の郊外の8駅では昨年3月のダイヤ改定後、曜日によって日中に駅員が不在になる時間が設けられた。駅員の不在時間帯はJRに係員を派遣してもらう必要がある。駅には「事前連絡にご協力をお願いします」との掲示が張り出され、管田さんは前日に電話予約するようになった。
昨年9月下旬、仕事で遅くなり、駅員不在の時間帯に長与に着く列車に乗ろうとして、長崎駅で「対応できない」と拒否されたことがあった。片道230円のところ、4500円かけてタクシーで帰宅した。同社は後日「対応したのが新人だった」と陳謝した。
実質的に予約なしでは希望する列車に乗れない状況について、管田さんは「移動の自由の制限ではないのか」と疑問視し、同社に改善を求める署名を昨年10月末から集めている。「他にも困っていながら声を上げられない人がいるのでは。バリアフリーに逆行している」と話す。
JR九州長崎支社によると県内では、無人駅を含めて多くの駅で駅員不在の時間帯がある。無人化を進めるのは人口減に伴って利用客が減少する中、効率化を図るのが狙いだ。駅員不在時に介助が必要な場合、当日の急な連絡でも「できる限りの対応を取る」とする一方、「スムーズな乗降のため事前連絡にご協力をお願いしたい」ともいう。
大分県では駅が無人化され、乗車の際の介助に予約が必要になる制約を受けたとして車イス利用者3人が同社に損害賠償を求め提訴。大分地裁で係争中だ。
国土交通省の2019年度の調査によると、JR以外の鉄道会社も含めた長崎県内の駅のうち、駅員がいない「無人駅」が約8割。全国で3番目の多さだ。
島原半島を走る島原鉄道(島原市)も、介助が必要な人が無人駅を利用する場合、乗車前の予約を推奨する。スロープは乗務員が主要駅から運ぶ必要があり、急な連絡だと対応が難しい場合もあるという。
松浦鉄道(佐世保市)も乗車前の予約を推奨するが、必須ではない。多くの車両にスロープを積み込んでおり、申し出があればすぐに対応できるからだ。06年までは予約を受けて有人駅から社員を派遣してもらっていた。担当者は「開業当初から向き合っている課題で、ノウハウはあります」と話す。
JR九州も県内を走る普通・快速列車の約3割がスロープを積み込んでいるが、災害など非常時の使用しか想定していない。
県外では水間鉄道(大阪府貝塚市)や京福電鉄(京都市)など、障害者団体の要望で車内にスロープを設置した例もある。バリアフリーなどの研究をする長崎大の吉田ゆり教授(発達臨床心理学)は、予約は利用者にとってハードルが高いと指摘。「車両や駅へのスロープの設置など、できることから進めていくことが必要だ」と話した。