仙台駅で払い戻し客が行列 「時間かかっても帰る」

大宮慎次朗 近藤咲子 徳島慎也 川野由起 申知仁 岡本進 石橋英昭 志村英司 井上充昌 高橋昌宏
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 【宮城】東北新幹線は電柱が折れるなどしたため那須塩原―盛岡間の運転が取りやめに。JR仙台駅には15日朝、払い戻しを求める数十人が窓口に並んだ。

 仙台市泉区の会社員佐藤祐治さん(56)はこの日、東京の本社に出張予定だったが、高速バスだと6時間近くかかるし、飛行機は費用がかさむ。会社に説明して待機することにした。「余震も続いているので心配。早く元通りになって」

 仙台市内の実家に息子(3)と帰省していた大学准教授の荒川慎太郎さん(49)=東京=は「仕事があるので、10日間は待てない」と在来線の特急で4時間以上かけて帰るという。

 常磐道でも通行止めが続く。東日本高速道路(NEXCO東日本)によると、福島県内で崩壊したのり面は幅70メートル、奥行き10メートル。復旧は今週半ばになる見通しだ。

 全日空(ANA)は16~20日に仙台空港発着の羽田、伊丹など4路線で、日本航空(JAL)も16日に仙台―羽田など3路線で臨時便を出す。

 一時2900戸が断水した山元町では、復旧作業が進む。15日夜もなお町南部の約300戸が断水中だ。

 この日は3カ所に給水所が設けられ、水くみに訪れた自営業木村健一さん(39)は「昼ごろにもポリタンクを持って来たが、使い切ってしまった」。地元では前日夕にいったん断水が解消したものの、今朝からまた出なくなったという。「家族4人暮らしで、トイレに使うとすぐなくなってしまう。昨日はお風呂にも入れなかった」と疲れた様子だった。(大宮慎次朗、近藤咲子)

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 15日朝までに宮城県や仙台市がまとめた被害状況によると、地震による負傷者は県内で53人(重傷5人、軽傷48人)だった。

 重傷者は石巻市東松島市白石市、村田町の10代~90代の男女。消防などによると、石巻市の70代男性は自宅ロフトの階段から足を踏み外して太ももを骨折。白石市の10代の男子中学生は自宅の食器棚が倒れて足を15針縫ったという。

 住宅被害では、山元町の184棟、岩沼市登米市の各1棟で一部破損。避難所に避難したのは14日朝に42人いたが、同日昼までにゼロになった。15日夕の時点で、仙台市太白区で4人が自主避難している。

 山元町の無職阿部邦憲さん(77)方では、木造2階建て住宅から百枚以上の屋根瓦が落ちた。雨に備えて、翌14日に隣町のホームセンターでブルーシートを購入。15日は朝から強い雨だったが、今のところ雨漏りはない。「風が強くなって、瓦やブルーシートが飛んだりしないか心配」

 水道管が破損し、県内各地で断水が広がった。山元町で2900戸、丸森町700戸、大河原町136戸、蔵王町100戸、大崎市16戸、仙台市12戸。15日夜までに山元町の約300戸を除いて復旧した。

 停電は延べ9945戸で、14日朝までにいったん解消。ただ、電線をつなぐ部品が損傷し、風雨の影響でショートするなどして、15日朝から再び停電。延べ7492戸に広がったが、同日午後に復旧した。

 学校校舎の被害も相次いだ。公立の小学校95校、中学校55校、県立学校59校で、水漏れやガラスの破損などを確認。山元町の全小中6校を含む計13校が15日に臨時休校した。

 産業にも影響が出た。

 石巻市や塩釜市女川町などで漁港の施設が被災し、水産業の被害額は少なくとも3億1800万円に。店や工場などの損壊で商工・観光業には1千万円の被害があるという。

 農業では、山元町のため池ののり面に亀裂が入ったほか、断水や設備の破損で山元町、名取市、大郷町でイチゴなどの作物に水がまけなくなる農家があったほか、港湾や道路、河川、海岸など64カ所の土木施設で計28億円の被害が出た。

 また、仙台市青葉区にある仙台藩祖・伊達政宗の墓所の瑞鳳殿(ずいほうでん)では、参道脇の石灯籠(どうろう)が複数倒れた。歴代藩主の家族が眠る墓地でも、約30基ある墓石や80基以上ある灯籠(とうろう)の多くが倒壊。白石城(白石市)では天守閣の壁のしっくいがはがれ落ち、ひびが入った。(徳島慎也、川野由起)

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 深夜の強い揺れに、10年前の東日本大震災を思い起こした人も多かった。

 震度5強を観測した仙台市青葉区。13日午後11時すぎには電車がストップし、JR仙台駅前では若者たちが「大丈夫だった?」などと話し合っていた。

 駅のタクシー乗り場に長い列ができ、同市宮城野区の会社員男性(45)は「会社の机の書類が床に散乱した。東日本大震災を思い出して家族が心配になったが、すぐに家族からラインがきて安心した」と話した。

 震災で約4千人が犠牲になった石巻市は震度6弱を記録。海岸近くに住む女性(65)は「風呂に入ろうとしていたところで、津波が来るんじゃないかと慌てて服を着た。震災以来の大きな揺れで、地震後、工場地帯からジェット機のような爆音が続いたので爆発が起きるんじゃないかと怖くなった」と付近を見て回ったという。

 震度6弱を記録した宮城県岩沼市。小林治身さん(61)は「ソファでテレビを見ていたら激しい横揺れが来て、植木鉢や花瓶が倒れた」という。10年前の東日本大震災で両親を亡くした。内陸部で自宅を再建したが、「津波のことが頭をよぎり、怖くなった」と話した。

 塩釜市の県営住宅「塩釜庚塚(かのえづか)住宅」の一室では出火があった。様子を確かめに来た近くの男性(74)は、自宅で本が散乱。「10年前の震災を思い出すほど、久しぶりに強い揺れだった」と話した。

 仙台市若林区の災害公営住宅「荒井東市営住宅」に住む庄司宗吉さん(85)は「今回はあの震災より揺れが大きかった気がする」と話す。大震災では市内の自宅が大規模半壊に。今回はテレビを見ていて、下から突き上げるような揺れを感じた。ただ、テレビと家具を固定し、タンスや冷蔵庫には突っ張り棒をしていたため、大きな被害はなく、庄司さんと妻にけがはなかった。「震災の教訓が生きたと思う」と話す。(申知仁、岡本進、石橋英昭、志村英司、井上充昌)

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 仙台市は15日、福島県沖の地震で五つの給食センターに被害が出て、小中学校などの6割にあたる107校約4万5千食の給食を取りやめた。一部で被害が少ないことが分かり、16日に67校約2万6千食分を再開する。

 市教育委員会によると、被害のあった給食センターのうち、荒巻(青葉区)と高砂(宮城野区)で調理場の天井などが損傷。異物混入を防ぐ工事のため、青葉区などの40校約1万8千食分は22日の再開を目指すという。当面は弁当の持参を呼びかける。

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 首都圏の私立大では、東北新幹線の運休などで入試を受けられなかった受験生に対し、追試などの特別措置をとる動きが出ている。

 慶応大は15、16日の入試について、東北6県に住み、東北新幹線の運転見合わせで受験できなかった人を対象に、3月9日に追試験を行う。

 早稲田大は、東北6県の受験生が15日以降の入試を受けられない場合、共通テストの成績で合否を判定することを決めた。

 法政大も独自試験を課さずに共通テストで判定する。(高橋昌宏)

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