【動画】JR西日本の長距離特急「WEST EXPRESS 銀河」に試乗=高橋豪撮影

 JR西日本の長距離特急「WEST EXPRESS 銀河」が大阪―下関間を結ぶ「山陽ルート」での運行を12日から始めるのを前に、試運転を兼ねた報道向け試乗会が5日にあった。山口県内の山陽線を特急電車が走るのは久しぶり。豪華寝台並みの車内設備と乗り心地を、一足早く体感した。

 午後6時、「銀河」がJR徳山駅(周南市)の4番線に入線した。瑠璃紺色の車体は、夜の闇に溶け込んでいた。大阪駅から下関駅まで12時間以上の長旅。今回はその終盤の2時間弱、夜汽車気分が味わえる区間を楽しんだ。

 「銀河」は9~11月、京都・大阪と出雲市駅(島根県)の「山陰ルート」を結ぶ夜行特急として運行された。今月12日~来年3月11日は「山陽ルート」を、朝出てその日のうちに着く昼行特急として走る。日、木曜は大阪行き、火、土曜は下関行きの予定だ。

 6両編成で、さまざまな座席や設備がある。全体がフリースペースの4号車から乗車した。四つあるボックス席は、それぞれ囲碁、将棋、チェス、オセロの盤面になっている。新型コロナウイルス対策のため、今は仕切り付き。ソーシャルディスタンスを呼びかける「距離」の表示は、往年のブルートレイン「瀬戸」のマークになっていた。季節が合えば、防府市東部の海沿い区間で、夕日が堪能できただろう。

 国鉄時代の40年ほど前につくられた117系電車を改造した。1号車の先頭付近にあるグリーン車専用のラウンジには、当時のままの窓がある。少し開ければ、走行音が一段と響く。棚に置かれた宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」が味わい深い。

 寝転がれる座席や、家族連れでも楽しめるコンパートメントもある。一つひとつ座りながら6号車へ。最上級のグリーン個室にこもり、マスクを外してまったりとした。

 厚狭駅(山陽小野田市)の通過時には、秋吉台の四季を語るアナウンスが流れた。「冬は山焼きが行われ、山焼き後の黒い地面にはベニヤマタケなどが生え、また秋吉台の春が始まります」

 「沿線の数ある魅力を星になぞらえて、星を結ぶという意味で『銀河』と名付けました。車内でもその魅力が楽しめます」とJR西日本広島営業部の古賀裕介・観光開発室長(38)。下関行きの広島―徳山間では、周南市の地酒3銘柄の試飲や販売がある。大阪行きが15分停車する柳井駅は、ホームを金魚ちょうちんで飾り、日曜日には伝統芸能が披露される。

 銀河に乗るにはツアーへの申し込み(事前抽選制)が必要。12月と1月の運行分は約8倍だったという抽選倍率をくぐり抜け、今度は全区間を乗り尽くしたい。

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 ふだんは電車が停車しない徳山駅の1番ホームの端。塗装がされていない場所で、かすかに「みどり」「しおじ」の文字が読めた。どちらも1975年以前に山陽線を走り、近畿と九州を結んでいた昼行特急だ。

 この年、岡山―博多間が開通し全線開業した山陽新幹線に代わり、広島、山口両県内の山陽線を走る昼行特急はなくなった。夜行のブルートレインは2009年まで走ったが、その後山口県内の山陽線で特急を見ることはできなかった。

 ここ数年、移動手段にとどまらない付加価値をもつ観光列車が次々と登場している。JR西では2017年、豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」が県内でも運行を始めた。「銀河」はその弟分とも呼ばれる。形を変えて、昼行特急が県内の山陽線に戻ってくる。(高橋豪)

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