「ありえない」新幹線敦賀開業遅れ 石川県で不満噴出

岡純太郎 三井新 木佐貫将司
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 北陸新幹線の金沢―敦賀間の開業は約1年半遅れ、建設費は2880億円増えるとの見通しを、国土交通省などが示した。2023年春を見据えて準備を進めてきた石川県福井県、沿線自治体、観光関係者から、不満が噴出した。

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 「常識的に考えられない数字じゃないか」

 県庁で取材に応じた谷本正憲知事は、期間の長さ、増加建設費の多さを、こう指摘。そのうえで、「前々から遅れ気味であるなら、その都度説明があってしかるべきだ」と国交省などの姿勢を強く批判した。

 増加した建設費については「どんな積算をされたのか疑わざるをえない。ありえないんじゃないですか」とも述べ、追加負担の受け入れは困難との見方を示した。

 国交省の鉄道局長や鉄道・運輸機構の理事長が12日に県庁を訪れ、知事や県議らに今回の経緯を説明するという。

 金沢―敦賀間(約125キロ)が完成すれば、石川では県内全線開業が達成される。このため県は、金沢―敦賀間を15年の長野―金沢間に次ぐ「第2の開業」と位置づけ、国内外の旅行者の誘客や交流人口の拡大を図ろうと準備を進めてきた。

 安倍前政権も地方創生の目玉として、整備を後押しした。12年8月に着工した金沢―敦賀間は、当初26年3月末の開業予定だった。しかし、景気回復の実感を地方に行き渡らせようと、前政権は国交省などに働きかけ、15年1月の政府と与党の申し合わせで3年前倒し。23年3月開業を旗印に掲げて整備が進められてきた。

 開業延期となれば、沿線自治体への影響は大きい。

 建設費の負担増への懸念もある。県によると、県内で生じた建設費については、JRが駅施設などの使用料として支払う分をのぞき、3分の2を国が、3分の1を県や沿線自治体が負担する仕組み。金沢―敦賀間の総建設費はすでに19年に人件費の増加などのため約2263億円増え、約1兆4121億円となった。県はこのうち19年度までに計約293億円を支払っているという。

 10月にあった県議会の地方創生・新幹線対策特別委員会では、議員から「敦賀開業が無理なら、金沢―福井間を先行開業できないか」といった声も上がっていた。

 福井県の杉本達治知事も11日、「(全国の整備新幹線事業で)政府・与党の合意が守られなかったことは今まで一度もない。憤りを覚えている」と不満をあらわにし、「大阪までの全線開通が遅れることにつながってはいけない」と釘を刺した。

 北陸新幹線の敦賀―新大阪間は今のところ、23年度の着工、46年ごろ開業のスケジュールになっている。(岡純太郎、三井新)

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 北陸新幹線がとまる予定のJR加賀温泉駅(石川県加賀市)では、高架橋や駅舎新築の工事が進んでいる。11日も、観光客を乗せた温泉旅館のバスが駅前の駐車場に並んでいた。

 駅から車で10分ほどの距離にある山代温泉で二つの旅館を営む同温泉観光協会の萬谷正幸会長は、延期について「びっくりした。旅館の誘客に大きく響いてしまう」。23年春の開業に向け、JRとの大型観光企画キャンペーンなどに取り組み、誘客を図ってきたといい、「予定が狂った。新型コロナで大打撃を受けても(延伸を目標に)頑張ろうと思っただけに非常にショック」。1年半延期の方針が報じられているが、「せめて半年程度の遅れにとどめてほしい」と話した。

 加賀市の宮元陸市長は11日、報道陣の取材に「(延期による)経済的損失はきわめて大きい」と述べた。ただ、ひび割れが見つかった加賀トンネルなどを念頭に、「技術的な問題でもあるので、ある程度は受け入れざるをえない」と延期への理解も示し、国が財政負担をどうするか、注視するとした。また延期について知ったのは新聞報道だったといい、「情報公開のあり方は問われるだろう」と注文をつけた。木佐貫将司

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