「右手をご覧ください」観光列車に数秒だけのおもてなし

城戸康秀
【動画】食堂列車を出迎え 手を振り走るボランティア=佐藤恵さん提供、城戸康秀撮影
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 熊本県八代市鹿児島県薩摩川内市を結ぶ肥薩おれんじ鉄道の観光グルメ列車「おれんじ食堂」が出水駅(同県出水市)に近づくと、車窓に向かって懸命に手を振る人たちがいる。「Welcome出水」と書いた手作りの横断幕、手にはオレンジ色のタオル。子供たちの姿も見える。日曜日の正午すぎ、恒例となった、わずか数秒のおもてなしだ。

 ランチを楽しむ「おれんじ食堂」第2便は午後0時2分に出水駅に到着する。16日、駅から約600メートル北の線路沿いにいたのは同市西出水町の会社員佐藤恵さん(45)ら7人。線路わきの緑地に幅4メートルほどの横断幕を立ててスタンバイすると、近くの踏切で警報が鳴り始める。線路がカタンカタンと音をたて、やがて紺色の車体が見えてきた。

 佐藤さんの娘友姫乃(ゆきの)さん(8)ら子供たちはオレンジ色のポンポンなどを精いっぱい振り回しながら「並走」する。列車はあっという間に通り過ぎていった。

 車内では「進行方向右手をご覧ください。地元の方々による毎週日曜日だけのお出迎えでございます」というアナウンス。立ち上がる乗客が相次ぎ、佐藤さんたちにも車窓から手を振り返す姿がはっきり見えた。「今日は多かった。うれしい」

 お出迎えは昨年2月に始まった。当初は友人・知人の集まりだったが、「おれんじ食堂列車に手を振るが♪」とフェイスブックや出水駅の貼り紙で呼びかけ、参加の輪が広がった。

 佐藤さんのフェイスブックにはお出迎えの様子が毎回投稿されている。多い時は約20人になるが、1人ということも。雨の日にはオレンジ色を含む色とりどりの傘が揺れる。年末には「振り納め」、年が明ければ「振り初め」。列車がスピードを落とし、ホーンを鳴らしてくれるのが「恒例」になってきた。

 昨年夏には線路沿いの雑草が高く生い茂り「うちら見えてるんすかねぇ」と書いた。すると、お出迎えスポットだけ、きれいに雑草が刈り取られた。「足長おじさんがいるらしい♥」。陰ながらの応援に感謝の思いが交錯する。

 「少しでも出水なりのおもてなしができないかなという思いで手を振っている。買い物のついでなどに気軽に来てもらえるとうれしい」と佐藤さん。お出迎えの楽しみを味わいたい人は、「オレンジ色の何か」を持って現地(出水市緑町)集合。事前連絡も申し込みも不要だという。

 「おれんじ食堂」は2013年3月に誕生した観光グルメ列車の草分け的な存在。車両は水戸岡鋭治氏がデザインした。新八代(熊本)―川内(鹿児島)を走る第2便(スペシャルランチ)を含め4タイプあり、金~日曜日と祝日に運行している。(城戸康秀)

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