「山手線初電に支障あり」計画運休、翌朝起きた緊急事態

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細沢礼輝 波多野大介
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 昨年相次いだ大型台風で首都圏や近畿の鉄道会社は、列車の運休を予告する「計画運休」に踏み切りました。社会の動きを止めかねない判断をめぐり、内部では様々な葛藤がありました。朝日新聞の連載「てんでんこ」から、計画運休の舞台裏に迫ったシリーズを再構成し、まとめてお伝えします。(年齢などデータは今年2月の紙面掲載時点)

「終電まで走らせるのは無理」。過去に例のない運休が現実味を帯びた

 台風24号が九州に迫っていた2018年9月30日早朝。JR東日本運輸車両部次長の小西雄介(こにしゆうすけ)(52)のもとに届いた最新の台風情報は、状況の悪化を告げていた。

 大型で非常に強い勢力を保ったまま上陸し、首都圏を直撃する可能性がある――。

 前日の29日午後には、気象庁の予報課長が緊急会見し、「紀伊半島や東日本の太平洋側で記録的な暴風となる恐れがある」と厳重な警戒を呼びかけていた。「終電まで走らせるのは、無理かも知れない」。過去に例のない、首都圏全JR路線の計画運休が、小西の頭の中で一気に現実味を帯び始めた。

 午前10時。東京都渋谷区にあるJR東日本本社ビルの一室に、小西ら運輸担当幹部が顔をそろえた。直近の予報データをもとに、テレビ会議システムで結んだ首都圏各支社や新幹線運行本部と台風対策を検討する会議だったが、結論が出るのは早かった。

 「午後8時以降、首都圏全線の運転を見合わせる」

 混乱を防ぐには、この方針をなるべく早く公表しなければならない。各路線でどの電車を最終とし、運転再開に向けて運転士をどこに配置するのかなど、各支社は一斉に具体的なダイヤづくりにとりかかった。

 正午過ぎ。JR東が計画運休の方針を発表した。マスコミ各社への報道発表やホームページ上への掲載に加え、相互乗り入れしている私鉄各社や、多くの人々が集まるイベント会場などにも連絡した。京葉線舞浜駅を最寄り駅とする東京ディズニーリゾート千葉県浦安市)はこの連絡を受け、場内アナウンスで来場者らに伝えた。

 とりわけ気を配ったのは、外国人への案内方法だ。どのような表現ならば確実に伝わるか。首都圏各駅に配る案内文をつくる担当者たちはお互いに知恵を出し合いながら、日本語で記された案内内容を、英語や中国語、韓国語に訳していった。

 午後5時過ぎ。中央線が高尾(東京都八王子市)以西の運転を取りやめたのに続き、長距離を走る上野東京ラインや湘南新宿ラインが運転を中止した。午後8時を回り、都心部を走る中央快速や京浜東北、東海道常磐線も次々と運転を取りやめていった。小西らが心配した「混乱」は生じないまま、計画運休は進んでいくようにみえた。

「運休を知らない客が来るかも」。シャッターは閉めずにいた

 再開発ビルに囲まれたJR大崎駅(東京都品川区)。山手線埼京線、湘南新宿ラインに加え、東京臨海高速鉄道りんかい線が乗り入れる同駅には、1日約33万人が乗降する。

 台風24号が九州南部に最接近していた昨年9月30日午前、都内の自宅にいた駅長の佐々木隆志(ささきたかし)(56)の携帯電話にJR東日本東京支社からメールが届いた。「首都圏全線の運転を午後8時に終える。まもなく発表する」。佐々木はスーツに着替え、駅に急いだ。

 まず頭に浮かんだのは「帰宅…

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