亡き夫「思いながら歩む」 宝塚線事故12年、妻の誓い

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千種辰弥
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 夫を亡くした女性は歌った。「時折忘れてしまいそうだ やさしい君の声の響きを」。JR宝塚線脱線事故から12年の年月が流れた。でも、きょうはあの日と同じ朝――。遺族らは追悼の場や現場で、失ったものを思い、そして祈った。

 「12年間本当にさみしかった。本当に苦しかった。心が折れそうになることも何度も何度もありました」

 追悼慰霊式で原口佳代さん(57)=兵庫県宝塚市=は、夫の浩志さん(当時45)を失ったあとの日々を振り返った。

 独り残された絶望的な状態は「地獄」で、後を追うことも考えた。「思い出の渦の中から抜け出そう」と決め、前に踏み出すまで8年かかった。同じように心に傷を負った人に寄り添おうと、心療カウンセラーの資格を取得。広島の土砂災害被災地で講演もした。

 だが、昨年10月、心のバランスを崩した。朝、目が覚めても体に力が入らず、布団に戻った。自宅で開くピアノ教室も休み、病院に再び通った。

 夫が頭に浮かぶことが増えた。事故前夜、一緒に立った台所。夫が作ったカルボナーラは火が通りすぎて卵が固かった。「これ、カルボナーラとちゃうやん」。ほおばりながら、軽口をたたいたっけ――。

 昨年末に年賀状を出し終え、あの年も酉年(とりどし)だったなと思った。12年前のこのとき、夫はまだ生きていた。「タイムスリップしたい」

 3月末、JR西日本の担当者…

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