一畑電車新型車両「8000系」デビュー デュアルシート搭載・地方路線の特性に合わせた機能とは? 製造秘話を聞いてみると…

松江市と出雲市を結ぶ一畑電車で、3月、新型車両8000系がデビューしました。
大手私鉄の中古車ではない完全新車の第2弾、2016年から4両造られた7000系に続く新製車両は、人口減少時代の地方路線の特性に合わせた機能が盛り込まれています。

雲州平田駅で7000系と並んだ8000系電車。
形はほぼ同じですが、車体のラッピングが省略されて、すっきりした外観となりました。

一方、車内は大幅に改良され、通勤通学に便利な長いす形と観光客向けのソファ形に座席を変換出来る「デュアルシート」を、地方私鉄では全国で2番目に搭載。
車内の案内表示も多言語対応として外国人観光客に配慮しました。

またドア脇にカメラを取り付け、映像を運転台のモニターに映すことでワンマン運転での運転士の負担を軽減しているほか、車いすスペースには補助いすを設け介助者の快適性向上を図るなど、ユニバーサルデザインにも配慮した、正に最先端の設備を持つ車両です。

後藤工業 大木慎一郎社長
「内装を全部替えるですとか、見た目も全部変わる、こういった大きな改造はJR西日本の車両はじめ、いろいろさせて頂いております。」

8000系を製造したのは米子市のJR後藤総合車両所でメンテナンスなどを行う「後藤工業」です。
今年4月には「JR西日本後藤テック」と改称するこの会社は、JR西日本のディーゼルカーを中心とした様々な形式の保守整備のほか、シートなどの内装の製作も担当する高い技術力を持っています。

これまで鉄道車両をゼロから造った経験はありませんでしたが、一畑電車7000系で初参入。
1両だけで走れる単行電車が求められたのがきっかけでした。

一畑電車 野津昌巳営業部長
「日中帯は決してお客様が多くない状況だという所もありまして、1両で運行できる車両、これを投入するという計画の中で、さすがにちょっと1両編成の中古車というのはなかなか・・・」

島根県と松江市、出雲市で作る沿線地域対策協議会では、単行電車なら乗客の数に合わせて1両で走ったり連結したりと輸送力をフレキシブルに変えられ、効率的だと計画。
しかし、地方路線を担当するディーゼルカーと違い、電車は複数の車両が連結して走るのを前提に、走行に必要な機器をいくつかの車両に分散して積んであるのが一般的です。

当然、1両だけでは走れないので、大手私鉄の中古車を譲り受けると、最低でも2両編成などということになりがちでした。

一畑電車 野津昌巳営業部長
「譲渡頂けるような車両もございませんでしたので、その計画の中で新たに車両を造ると。1両編成で動かせる車両を造るということで。」

島根県 丸山達也知事
「出雲大社と国宝松江城を結ぶ貴重な路線として、県民の皆さん、市民の皆さんのご理解を頂きながら、県、出雲市、松江市で一畑電車を支えて行かなきゃいけない」

沿線地域対策協議会が補助して単行電車を新しく造ることになり、地元の後藤工業に白羽の矢が立ちました。

ただ、全くのゼロから電車を設計することは出来ず、JR四国が開発した単行電車の図面を元に製作。

JR西日本の電車が2両に分けて積んでいた電気部品を1両の床下に苦心して配置することで、完成することが出来ました。

その際、ワンマン運転の一畑電車に合わせて車体中央にあった扉を廃止したり、前照灯やパンタグラフなどを最新型に変更したりしています。

後藤工業 大木慎一郎社長
「両数としてはそんなに多くはないものの、地元に近い鉄道事業者さんと一緒に車を造らせて頂くということは、要望に対してきめ細やかにおお応えできるかなという所で、地元の私どもとしてもすごく価値があるかなと。」

7000系が10年近く安定して運行を続けていることで、新たな車両メーカーとしての評価も定着。
製造5両目で形式名も変わったこの8000系をベースに、ほかの地方私鉄に向けて車両を製造、販売出来る可能性が出て来たようにも思えます。

後藤工業 大木慎一郎社長
「鉄道車両、どうしてもオーダーメイドで造っている所が、それぞれの事業者さんで求められる仕様が別々なもんですから。
そういった所を例えば共通化することによって、少しでも質が良くてお安いものが提供出来るかなという所で、私どもとしても仕事のチャンスがあるのではないかなというようには考えております。」

実際、大手私鉄の中古車を購入するのが長らく一般的だった地方私鉄の中でも、オリジナル車両を新製する会社が出て来ています。
地方私鉄に適するやや小ぶりの車両が大手の中古車では限られる上に、各社の取り合いで数が足りないという全国的な事情もあって、事実、一畑電車1000系として購入した元東急電鉄の3編成は、中間車に新たに運転台を付けたため改造費用が高くなってしまいました。

こうした状況の中、単行電車を造れる新たな車両メーカーということは、大きなチャンスかもしれません。

一畑電車 野津昌巳営業部長
「調達価格の問題は当然あるんですけれども、裏を返せば新しい分だけ長く使用出来るという背景も、当然持ちますので。総合的な観点から考えて新車導入というのは1つの手法だとは思ったりはしてます。
いろんな設計コンセプトで、いろいろ設備に落とし込めば、ほかの事業者さんでもお使い頂けるような車両には当然なっていくだろうなという風に思っています。」

試乗した丸山知事は。

島根県 丸山達也知事
「便利で機能的だと思いますので、多くの利用者の皆さんに使っていただければと思います」

知事も乗り心地を絶賛の新型車両。
今後、全国の中小私鉄で、米子生まれの電車が走ることになるでしょうか?

© 株式会社山陰放送