北陸新幹線金沢開業から10年でも見えない“敦賀より西”のルート 石川県の政財界からこの1年で「米原ルート」が再浮上 各府県の思惑が交錯する議論の変遷

北陸新幹線の金沢開業から10年。現在は敦賀までが開業していますが、その先につながるルートについては未だ着工に至らず議論が続いています。大阪までの全線開業に向けたルート問題の変遷と課題について考えます。

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北陸新幹線敦賀以西のルートは、2016年にいずれも京都を経由する「米原ルート」、「小浜・京都ルート」「小浜・舞鶴ルート」の3案に絞られ本格的な議論が進められました。

この中で建設距離が長い舞鶴ルートがまず外され、「米原ルート」と「小浜・京都ルート」の2案から当時の与党が選んだのが「小浜・京都ルート」でした。

与党ルート検討委員会・西田昌司委員長(2016年)「北陸と関西の移動の速達性、利用者の利便性などを総合的に勘案し、敦賀・小浜・京都・新大阪間を結ぶルートは適切であると」

当時の石川県議会は米原ルートを押していましたが、政府・与党が全線開業へ小浜ルートでの早期着工を目指す方針を示したことからこのルートでの着工が決定したはずでした。

自民党石川県連・福村章会長(2016年)「敦賀で止まって20年も30年も接続できないとなると、中京圏ばかりでなく関西圏とも断絶する。だから北陸3県で精力的に働きかけをこれから始めることでみんな一致している」

「小浜でOK」が 敦賀延伸のタイミングで“現実路線”を主張

ところが、この決定に異論を唱える動きがにわかに出てきます。2024年3月16日、敦賀延伸がスタートした日に加賀市の宮元陸市長が「米原ルート」に言及します。

加賀市・宮元陸市長「一日でも早く米原につなげてもらって、東京から日本海側太平洋をぐるっと周れるような新幹線の高速交通体系をつくることが日本の再生につながっていくと思っている」

再び米原ルートが浮上してきたのです。

国が示した当初の試算です。小浜ルートが建設費2兆1000億円で工期が15年。米原ルートが5900億円で工期が10年となっていました。

また、金沢から新大阪までの所要時間は、小浜ルートが1時間20分米原ルートは東海道新幹線に乗り換える想定で1時間41分。

小浜ルートが20分ほど所要時間が短くなるとのことで、建設費や工事期間はかかるものの運賃なども含めた判断として2016年に小浜ルートでの延伸が決まりました。

2024年8月の国土交通省の試算です。物価の上昇などもあり小浜ルートの建設費は最大で5兆3000億円、工期は最長28年と大きく上振れしました。

敦賀の開業と同時に着工予定だった延伸も工事が始まらず2016年の時点と大きく状況が変わる中、ルート問題が再燃しました。

石川県では高まる「米原ルート」論 知事も言及

石川県では南加賀や経済界を中心に早期着工をめざして米原ルートでの延伸を要望する声が高まっています。

石川県の馳浩知事は12日、政府・与党が合意した小浜・京都ルートで問題解決が図れない場合は「米原ルートを含めて検討を行うべき」だと発言しました。馳知事はこれまで具体的なルートの名指しは避けてきましたが、米原ルートを求める石川県内の政財界に押された形です。

石川県・馳浩知事(12日の石川県議会予算委員会)「解決のめどが立たないと判断された場合は、米原ルートを含めた検討を行い、何よりも1日も早い全線整備を目指すべき」

米原ルートになると並行在来線や費用負担の問題が出てくる滋賀県は、小浜ルートを主張します。

滋賀県・三日月大造知事「滋賀県知事として明確に申し上げてておきたいことは、私も小浜・京都・大阪の早期着工と早期開業が思いでありますので・・」

県によって歩調が合わないなか、ポイントとなるのが京都の考え方です。

京都は懸念を示す 仏教界は「千年の愚行」と反発

京都府や京都市は小浜ルートになった場合、新たなトンネル工事が必要となり、地下水へなどの影響や財源について懸念を示しています。

京都府・西脇隆俊知事「住民・府民の皆さんの理解と納得、沿線の市町の協力が不可欠」

また、地元で強い影響力を持つ京都仏教会は、「千年の愚行」と小浜ルートの再考を求める申し入れ書を京都府に提出しています。

京都仏教会・長澤静香事務局長「千年の愚行とならないようにしっかり考えていただく」

ホームページで計画撤回の署名運動を展開し、署名はすでに5000を超えています。

今後は、金閣寺など全国的に有名な寺院でも署名活動を行う予定です。

「小浜ルート一択」の姿勢の福井県 県民は賛否分かれる

一方、「小浜ルート一択」として主張を曲げないのが福井県です。2025年の冒頭で杉本知事からはこんな発言が飛び出しました。

福井県・杉本達治知事「私、個人の初夢として申し上げれば小浜・京都ルートの中では小浜先行開業もあるのではないか」

福井県民「行くなら乗り換えなしで行ってほしい。直通で」「私は小浜を通っていった方がいいと思う。これから何が起きるかわからないし。東京で地震が起きたら別のルートがあるのはいい」「もともと新幹線はいらないと思っている。特急のほうが便利だったから」「米原へ入ってくるのが一番便利がいいと思う。そのほうがスピードが速いし、乗り換えの不便さはあるけど」

石川県で高まっている米原ルートでの延伸を想定した場合、東海道新幹線への乗り入れによってダイヤが過密になり、必要な運行本数を確保できないことなどが懸念されています。

交通政策に詳しい京都大学の中川大名誉教授は次のように話しています。

京都大学・中川大名誉教授「米原ー新大阪間の場合は「ひかり」「こだま」に乗っている人があまりいなくて、ほとんどが「のぞみ」に乗っているので、「のぞみ」の本数を変えないまま「ひかり」「こだま」が走っている時間帯に北陸新幹線が1時間に2-3本入ってくるということはダイヤ上必ずできるはず」

JR西日本とJR東海で運行管理システムが異なるため変更に費用がかかるとの懸念に対しては、「建設費とのバランス」も鑑みた総合的な視点が必要だとしています。

ルートの選定は、沿線各地の政界や経済界の思惑が交錯する綱引きをくりかえしながら、一度は決定したものの出口が見えない状況が続いています。

石川県選出の自民党国会議員は、米原ルートでの建設費などについても詳細な数字を提出して比較できるよう求めていくことにしています。

住民の声をくみ、広い視野に立った議論や判断を期待したいところです。

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