
休日に挟まれた月曜日の午前8時過ぎだった。30年前のきょう、東京都心の地下鉄霞ケ関駅を通る3路線の列車内。いつものように通勤通学する人も、たまたま乗り合わせた人もいただろう▲突如、異変に襲われる。「視界にグレーのカーテンが」「喉が細くなった」。オウム真理教の信者がまいた猛毒サリンの被害だとは知るよしもない。証言集「サリンそれぞれの証(あかし)」(木村晋介著)が詳しく伝えている▲現場をいま訪ねても、惨劇を物語るのは駅の壁面にある慰霊文だけだ。乗客や地下鉄職員ら14人が亡くなり、6千人以上が巻き込まれた。あの年、阪神大震災と合わせて感じた底知れない不安の記憶は、どれほど残っていよう▲「今も闘っています」。被害者の会が先日、都内で開いた集会で地下鉄職員の夫を亡くした高橋シズヱさんは訴えた。オウムの後継団体は若者を言葉巧みに誘う。カルト集団をまた見逃せば、事件が再び起きかねない▲高橋さんは有志で遺族や弁護士の手記をまとめ、ネットで公開し始めた。元信者がなぜ教団に引かれたかを語る動画もある。背景を知らねば加害者にもなり得る。もし自分だったら。「証言」からの学びを共有する時だ。