常磐線全線再開から5年 沿線駅周辺で進む再開発、にぎわいに期待
東日本大震災や東京電力福島第一原発事故の影響で9年にわたり一部区間で運転が止まった常磐線は14日、全線での運転再開から5年を迎えた。沿線住民の減少で赤字問題が顕在化する中、駅周辺の再開発が動き始めた。鉄道の利用者増加への期待も高まっている。
双葉駅の東口から50メートルほどのところに、カラフルな塗装が施された2階建ての建物がある。その1階の小さな窓の前で、行き交う人が足を止める。焙煎(ばいせん)コーヒーの販売所だ。
「仕事で来たんですか?」「いつまでいるんですか?」
注文した客に話しかけるのは、店のオーナー深沢諒さん(28)。2月23日に店を開き、コーヒー1杯500~600円で販売している。「(震災から14年となる)3・11に多くの人が来たので、2週間で1千杯は超えましたね」
秋田市出身の深沢さんは、知り合いが浜通りに多くいたことから、震災後に大熊町に移住。週末にはイベント会場などにテントを立て、コーヒーのスタンドを開いてきた。震災前のブティックの駐車場が双葉駅近くにあったことから、そこに店を構えた。
「お客さんに大好きなコーヒーを飲んでもらい、会話を交わす。そんなコミュニケーションが町のにぎわいにつながればいいですね」
隣には13日、駅近くとしては初めてランチが食べられるカフェもオープンした。運営を手がける横浜市のまちづくり会社「コトラボ」の星翔太さん(30)は「夜にお酒を飲みながら食事をしたいという声を聞いている。4月から曜日限定でも始められれば」と話す。
2022年8月に駅周辺の中心部の避難指示が解除された双葉町。町は駅西側を住居ゾーンと位置づけ、町営住宅86戸を整備した。駅東側は「にぎわい創設エリア」としている。今夏の開業をめざしてイオンスーパーの建設工事が進む。近くには商業施設が整備され、来春には居酒屋や鉄板焼き屋3軒が営業を始める計画だ。
伊沢史朗町長は「スーパーや商業施設ができれば居住人口も増えていく」と話している。
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浪江町は昨年10月、浪江駅周辺整備計画に基づき駅東側の基盤整備を始めた。
建築家の隈研吾さんが総合デザインを手がけ、アップダウンのあるダイナミックな大屋根「なみえルーフ」を造る。公営や民営の集合住宅もつくり、交流施設や商業施設を設ける計画だ。
駅の西側には、2030年度をめどに福島国際研究教育機構(F―REI〈エフレイ〉の整備が進む。町は、その周辺の23ヘクタールを「公民連携まちづくりエリア」と位置づけ、3月末までに整備計画をまとめる。
産業団地(9ヘクタール)や、「交流と学びによる共生・共創の場」(14ヘクタール)づくりをめざす。4月には民間企業や専門家、住民らを交えた「共創会議」を設け、具体的な設計を進める。28年度には民間企業が施設建設を始める計画だ。
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JR東日本は昨年10月末、利用者が少ない地方路線の2023年度収支を公表した。その中に、初めて常磐線の「いわき(いわき市)-原ノ町(南相馬市)」区間が加わった。赤字額は31億2300万円で、県内の対象5路線12区間でトップだった。
最大の要因は沿線住民の減少だ。2月末現在、同区間に含まれる双葉町の居住人口は184人(震災前は7100人)、浪江町は2274人(同2万1542人)だ。浪江町市街地整備課の伴場裕史F(エフ)-REI(レイ)立地室長は「駅東に集合住宅が整備され、エフレイの研究者やその家族の移住が進めば、エフレイの『鉄道の玄関口』として常磐線の利用者は増えていくだろう」と期待をこめる。
震災後の常磐線と沿線の動き
2011年3月11日 東日本大震災発生。津波で線路や駅舎が被害。全線で運転停止
12日 東京電力福島第一原発で水素爆発。常磐線沿線の7市町に避難指示
19年4月20日 Jヴィレッジ駅開業
20年3月14日 富岡―浪江駅間が運転再開し、9年ぶりに全線開通
22年6月30日 大野駅(大熊町)周辺の避難指示解除
8月30日 双葉駅(双葉町)周辺の避難指示解除
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