南海トラフに立ち向かう備えを 能登支援の医師・看護師が感じた課題

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高絢実
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 甚大な被害が出た能登半島地震の発生から1カ月。被災地では、今なお全国から医療従事者が駆けつけ、支援にあたっている。DMAT(災害派遣医療チーム)や災害支援ナースとして活動した愛知県内の医師と看護師は、「南海トラフ地震」への備えの必要性を改めて口にした。

建物は損壊 断水し、暖房もつかないなかでの介護

 損壊する介護施設、職員も被災するなかで足りぬ人手、届かぬ支援……。

 「南海トラフ地震でも石川県輪島市や珠洲市と同じ状況になる可能性がある」

 名古屋大学医学部付属病院(名古屋市)救急科長の山本尚範医師(45)はそう指摘する。DMATのメンバーとして1月4~8日、被災地へ入り、支援活動にあたった。1月下旬、東京の日本記者クラブで活動を報告した。

 山本医師は主に、珠洲市内で活動。特にリスクの高い高齢者施設の状況を把握しようと、7日に介護老人保健施設「美笑苑」を訪問したという。

 そこでは、目を疑う光景が広がっていた。

 要介護区分1~5の入所者100人に加え、隣接するグループホームから20人が避難。職員90人のうち、被災しながら出勤できる30人で対応にあたっていた。

 地域は断水し、暖房もつかず、建物は損壊。山本医師が訪問する直前まで、電気すら通っていなかった。

 「私たちは日本の中から忘れられてしまったんじゃないか。その怖さで震えていた」。施設職員のそんなつぶやきが忘れられない。職員たちは発災後から家に帰れず、睡眠も2時間程度だった。

 限られた資源や環境で十分な介護は難しい。

 山本医師が直感したのは「潜在的な災害関連死のリスクが高い」ということだった。

 すぐにDMATの活動拠点本部に報告した。石川県や愛知県と連携し、1月11日に空路で多くの入所者たちが避難できることになった。愛知県によると、県内には計68人の高齢者が避難。病院に入院し、調整ができ次第、施設に移っているという。

東海でも同じ状況起こりうる…超高齢化社会の厳しい現実

 被災地で見えた課題は、少なくないという。

 復旧がままならない中、慣れ親しんだ土地と血縁者のもとを離れた要介護者は最終的にどこで暮らしていくか。入所者がいなくなった施設の職員の生活はどう支えるのか。また、在宅で介護を受けている人々は取り残されていないか――。

 超高齢化社会の厳しい現実が突きつけられている。

 山本医師は「今、元気な人も、いずれはケアが必要になる。超高齢化社会で、医療と介護は両輪。施設が休業状態になると、医療と介護が同時に崩壊する危険がある」とも指摘する。

 東海地方も同じ状況は起こりうる。

 「インフラが途絶しない仕組みや、ケアワーカーが減らない仕組みを考えないと、私たちは南海トラフ地震に立ち向かえない」と話した。

 愛知県によると、1月2日~31日、県内から74隊(364人)のDMATが被災地に派遣され、活動を続けているという。岐阜県からは38隊(172人)、三重県からも43隊(195人、いずれも延べ数)が派遣されている。

混乱のため避難所内でも土足…衛生面でも対応

 避難所では、各地から派遣された看護師が、感染症対策などの面で衛生的な環境づくりを進めている。

 名古屋掖済(えきさい)会病院(名古屋市中川区)の看護師、中島友和さん(47)と中村有作さん(42)は、「災害支援ナース」として1月10日に石川県七尾市へ入った。

 愛知県看護協会からの派遣要…

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この記事を書いた人
高絢実
くらし報道部|社会保障担当
専門・関心分野
外国人、在日コリアン、社会保障全般
能登半島地震

能登半島地震

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