線路にドスン…男性転落 電車接近のアナウンスの中、高校生ら4人は

真常法彦
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 「まもなく……」。ホームに電車接近のアナウンスが流れた。遠くに坂を上って近づく電車が見える。それでも4人は、走った――。

 8月7日午後1時ごろ、阪神芦屋駅(兵庫県芦屋市)のホーム。電車を待っていた会社員、宮本久喜三さん(58)はドスンという鈍い音を聞き、スマートフォンから目線を外した。線路を見ると、若い男性がレールの上に倒れていた。

 電車接近のアナウンスが響く。「まだ間に合う」。迷わず線路に降りた。

 意識を失った男性の体は重かった。なんとかホーム下の空間に逃げないと……。その時、ホーム上で走り寄る3人の影が見えた。

 芦屋学園高3年の厚地真之介さん(17)が真っ先に線路に飛び降り、宮本さんを手伝った。「助けたいという思いだけで。電車が近づいているのは知らなかった」

 同高3年の内山凌太さん(17)も駆け寄ったが、ふと思った。「誰も非常通報ボタンを押してないんちゃうか?」。きびすを返し、ホームの非常通報ボタンを押した。異常を知らせる連絡が運転士に届き、けたたましいブザー音がホームに響いた。

 同高1年の佐藤悠大さん(16)は線路に降りた2人が運んだ男性をホームから引き上げた。「はよ助けなあかんと思って必死だった」

 男性は無事救助された。体調不良で線路に転落し、その際足に軽傷を負った程度で済んだ。

 3人は駅で偶然居合わせた。顔見知りだが、部活はバスケ、テニス、バドミントンとばらばら。佐藤さんは「人身事故をニュースで聞くたびに、助けられなかったのかなあと暗い気持ちになっていた。命を救えてよかった」。

 宮本さんは「1人では助けられなかった。若い3人を突き動かしたのは、心の中の優しさだと思う。日本のこれからを背負う世代、頼もしく思いました」。

 県は21日、4人に対し、善行をたたえる「のじぎく賞」を贈った。(真常法彦)

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