小田急線事件、どうしたら防げたか 裁判員らが判決後に語ったこと

田中恭太
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 小田急線の車内で2021年8月、乗客3人を包丁で襲ったなどとして、殺人未遂などの罪に問われた対馬悠介被告(37)に、東京地裁は懲役19年(求刑懲役20年)を言い渡した。審理に加わった裁判員らは、密室となる走行中の電車内で起きた凶行と、そこに至る被告の心理に向き合い、事件をどう考えたのか。判決言い渡し後に取材に応じ、それぞれの思いを語った。

電車内の凶行は「二重の恐怖」

 判決は「被害者はいずれも、突如訳も分からず襲われ、多大な恐怖や精神的苦痛を受けた」と指摘した。

 公判では、傍聴席には上映されなかったが、犯行当時の電車内の防犯カメラ映像が証拠として取り調べられた。

 補充裁判員を務めた会社役員の遠藤真さん(64)は「電車の連結部分が狭く、(逃げようと殺到した乗客が)全然身動きが取れなくなって、犯人が迫ってくる。押し合って苦しいのと、包丁を持つ人が見えているという『二重の恐怖』があったと思う」と振り返り、語った。

 「全く罪のない被害者が3人おり、それ以外にも逃げ惑い、けがをされた方が相当数、いたと思う。無念さや恐怖心の代弁者になれればと思った」

 別の補充裁判員の女性も「1人が転ぶと、つまずいて転び、折り重なってしまう。逃げたいけど逃げ場がなく、恐ろしい場面」と話した。

 被告は、犯行動機を「世の中に対しての恨みがあった」などと説明した。

共感し合える人、友人がいれば

 裁判員を務めた会社員女性(22)は「苦しい気持ちを共感し合える同年代の人らがいて、話す機会や環境があれば違ったのかなと思った」と述べた。

 女性も、社会に不満がないわけではない。お金に余裕があるわけでもない。

 「お金がないな、働いていても嫌だなと思う時はありますけど、一緒に働いている人とコミュニケーションを取ったり、友達と連絡を取り合ったり、おいしい物を食べたりして解消し、人に当たらないようにしています」という。

 被告の境遇をおもんぱかる一方、「関係ない人に手を出してしまったのは共感できない」と女性。その上で「(矛先が)他人に向く前にどうにかできなかったのかなと何度も思ってしまいました」と話した。

 遠藤さんも「何でも相談できる親しい友人がいればとどまった可能性があるかなと思った」と話した。

 「(被告は)大学をやめてからはアルバイトだけの生活で、『知り合い』しかいなかった。コンビニでの仕事も、コンビニに雇われているわけではなく、派遣会社から派遣されていたと言っていた。(直接)雇われるのとは大違いですよね」

 補充裁判員の女性は「(被告を)取り囲む環境が悪かったのもあるが、(被告本人の)投げやりな性格が環境を悪くしていたところもある」とも指摘した。

でも「性格」も悪化要因

 裁判員の40代女性も「被告が言っているのは、世間一般で言えば皆も結構思っているようなこと。大なり小なり、社会に対しての不平不満はみな持っていると思う。やったことへの責任は見直して欲しいな、という思いを込めて判決を出した」。

 別の女性裁判員は「被害者に対しての謝罪がまだ行われていない。それは絶対にやってほしい」と話した。田中恭太

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