愛知県在住で名鉄に勤務している大学時代の同期生から「これ、ブログのネタに使えば」と送られてきた画像に思わず「おぉ~っ」と唸ってしまいました。
愛知県名古屋市の栄町から同県瀬戸市の尾張瀬戸までを結ぶ名鉄瀬戸線は、4月2日で開業120周年を迎えました。「瀬戸物」で知られる瀬戸焼を運ぶ目的で建設された名鉄瀬戸線は当時、瀬戸自動鉄道という会社で、開業の翌年に瀬戸電気鉄道と社名を変えて電化されました。戦時色が強くなりつつあった1939年に名古屋鉄道に吸収されて名鉄瀬戸線となります。
現在は前述のように栄町が起点ですが、開業当初は現在の名古屋市中区の景雲橋付近に堀川駅という駅があって、そこが起終点でした。そして名古屋城の外堀沿いをぐるっと回り、土居下駅の辺りで現在の瀬戸線(新線)と合流する感じで線路が敷かれていました。名古屋城の外堀沿いを走ることから、「お濠電車」と呼ばれて親しまれましたが、1968年に名古屋市電が廃止され、並行する名古屋市営地下鉄名城線との兼ね合いから、瀬戸線の経路を変更して名古屋最大の繁華街である栄への乗り入れを検討し、紆余曲折ありながらも計画の申請を当時の建設省と名古屋市議会が認可、瀬戸線の栄乗り入れが決まります。交換条件として名鉄が建設免許を保有していた八事と赤池間の免許を名古屋市に譲渡し、これが後に地下鉄鶴舞線になります。土居下から先を名鉄独自で地下線とし、それに先立って1976年2月に「お濠電車」区間を廃止、1978年2月に長年の稼ぎ頭であった貨物営業を廃止、同年3月には架線電圧を600Vから1500Vへ昇圧、8月20日に栄町-東大手間の新線が開業しました。
「お濠電車」の時代は小型車が活躍していて、1969年には特急も走らせています。勿論、パノラマカーではありません(新線開業時に急行に格下げ)。
そして旧線時代の瀬戸線といえば、この構造物を忘れてはなりません。
複線の線路が一瞬一つに纏まる「ガントレット」。
滅多にお目にかかりませんが、地方の小規模私鉄にも複線区間があり、その複線区間の用地が様々な理由で幅員を確保出来ない場合、その区間だけ単線(に見せかける)にする方法を指し、「単複線」とも呼ばれます。
図で表すとこういう感じになります。
日本では名鉄瀬戸線の本町駅構内にあったガントレットが最後とされていて、名物にもなっていました。
本町駅には名古屋城の外濠にかかる本町橋が架かっていましたが(画像の暗渠部分が本町橋と思われる)、その支間が狭く、複線にする用地を確保出来なかったことからガントレットにする措置が採られました。
複線で閉塞区間ではありますが、列車のすれ違いは出来ません。
「分岐器(ポイント)で処理すれば良いのに」という声もあるかもしれませんが、別にここで方向転換するわけではないし、万が一、分岐器の操作ミスで上り列車が下り線(あるいは下り列車が上り線)を逆走したら一大事です。
瀬戸線旧線の廃止を以て、日本ではガントレットは見られなくなりましたが、欧州のトラムとかでは現在でも採用例が多く、営業線以外ではJR東日本外房線の留置線にガントレットがあるとかないとか言われていますが、詳細は判らずじまいです。
本町橋は現存してますので、遺構を探してみては如何でしょうか? あと、もしかすると市販されているDVDでも観られるかもしれません。
私がガントレットの存在を知ったのは小学生の頃ですが、似たような時期にクリント・イーストウッドが主演した「ガントレット」という映画がありました。刑罰・体罰を意味し、罰を受ける者が二列に並んだ兵士の間を通り抜ける感じで強制され、その間に兵士が刑罰者を棍棒などでボコボコにするというもの。この二列を「Gauntlet」と言います。欧州でも同じ意味合いになるんですが、最初に映画の存在を知った時、子供心に「名鉄の物語」かと思っていました。クリント・イーストウッドが名古屋鉄道を題材にした映画に出演?
いずれにしてもケメコ(同級生の大学時代のあだ名)、貴重な画像をありがとう。
【画像提供】
ケ様
【参考文献・引用】
日本鉄道旅行地図帳第7号「東海」 (新潮社 刊)
ウィキペディア(名鉄瀬戸線、同本町駅、単複線、ガントレット(映画))
名鉄瀬戸線(旧線)を扱った各サイト