交通需要は派生需要だと知らない? | 京阪大津線の復興研究所

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最近の記事で頻繁に取り上げている大井川鐵道に関して、いくつかのコメントが届いています。今のところ削除せず返信していますが、本来は消し去るべき稚拙な内容ばかりです。

共通の問題は「交通需要は派生需要」との視点が欠けていることです。経済学では、例えば「ジュースを飲みたいからジュースを買う」ことを「直接需要」や「自発的需要」などと表現します。

 

一方で交通需要は、直接需要には本来なり得ません。A地点からB地点へ移動するため、あくまで「手段」として交通機関を使うのであって、乗ること自体が「目的」ではないからです。派生需要とはそういう意味です。

例外は、二輪車ならツーリング、四輪車ならドライブ、そして鉄道なら「乗り鉄」です。私個人も「直接需要」として鉄道を利用した経験がいくらでもあり、今後も止めるつもりはないので、それを否定する意志も資格もありません。ただし、一般の利用者にそれが当てはまらないことは、常に認識しておかなければならないと肝に銘じています。

そうした角度から見た場合、現在の大井川鐵道はどうでしょうか。交通需要の本質を少しく見失っていることは否めません。

私は以前の記事で「(大井川鐵道の)鳥塚社長を侮辱するつもりなど毛頭ありません」と述べました。しかし、事ここに至っては、私が鳥塚氏の手法を必ずしも肯定しているわけではないことを明かさなければならないでしょう。さもなくば、私自身が鳥塚氏に媚びていると誤解される恐れが出てきたからです。

鳥塚氏は、現職に就く以前に、いすみ鉄道で約9年、えちごトキめき鉄道で5年弱、社長を歴任しています。ただ、収支だけで鉄道の価値を図ることはできないものの、在任中には両社の赤字を解消できなかったと報じられています。

肝心なのはここからです。私の知る限り、鳥塚氏は鉄道の「直接需要」を刺激し、開拓することに徹してきた感があります。もちろん、それによって間接的に地域の足を支えるという理屈は分かります。ただ、「程度の問題」は無視できません。

この件については、あまり関心がなかったので断言はできませんが、羽田空港だったか成田空港だったか、そこから駅へと直行バスを走らせてまで、いすみ鉄道に乗せる企画があったと記憶しています。

 

ここまで来れば、さすがに交通需要の本質から外れ過ぎていると言わざるを得ないでしょう。「直行バス」を走らせることで生じる費用、さらには環境への負荷やエネルギー消費の問題も無視できません。


この施策が、いすみ鉄道の赤字を縮小をする役に立ったのか、あるいは逆効果だったのか、それこそ外部の人間には知る由もありません。ただ、いすみ鉄道を黒字転換させるまでに至らなかったのは、歴然たる史実です。

それを言うなら、大井川鐵道は昔から「直接需要」で経営を維持してきたではないか、と反論されるかもしれません。しかし、(国鉄→)JRから分離した上記の二社よりもずっと前から、厳しい環境を生き延びてきた実績があります。

 

さらに、蒸気機関車の本線復活運転の元祖でもあります。その成功に影響されて多くの追随者が現れたため、希少価値が相対的に下がってしまっただけのことです。パイオニアとしての名誉は、微塵も損なわれていません。要するに、手法が同じでも、出発点の次元が根本的に異なるのです。

これを指揮したのは、大井川鐵道の副社長だった白井昭氏です。白井氏は名鉄在籍時にも、鉄道史上に燦然と輝く7000系パノラマカーの企画・設計・製作に携わった、正真正銘の偉人です。

 

「前面展望車の源流(1)」の記事でも述べましたが、白井氏が生み出したパノラマカーは、日本の鉄道では初めて、乗り物に乗ることの根源的な楽しみに通じる「前面展望」を実現した車両です。かつ、その溢れる魅力により、並走する国鉄に対する優位を決定づけました。さらには、当時から自動車が優勢だった中京圏において、鉄道の地位を高めるのにも大きく貢献したと言って差し支えないでしょう。即ち、直接需要と派生需要の双方を拡大させた稀有な車両なのです。

名鉄7000系パノラマカー
名鉄7000系パノラマカー

言い換えれば、「直接需要」を生じさせる大井川鐵道の手法は、鳥塚氏が創造したものではないということです。鳥塚氏に媚びる中学生は、白井昭氏の御高名と実績を存じ上げているのでしょうか。知らずに戯言を並べているのなら、若気の至りでは済まされません。派生需要の件も含めて「無知は罪なり」です。

 

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