旅メモ ~旅について思うがままに考える~

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国鉄の置き土産~新会社へ遺産として残した最後の国鉄形~ 北海道と四国、異なる地で走り続けるステンレス製気動車・キハ54形【8】

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《前回からのつづき》

 

 北海道向けに製造された500番台は、四国の配置された0番代と異なりました。0番代が松山運転所に集中配置されたのに対し、500番台は旭川、苗穂、函館、釧路の4つの区所に分散配置されたのです。これは、北海道が四国と比べて広大であり、国鉄末期とはいえど多くの鉄道路線が広がっていたことや、輸送量も1両編成でも十分であったことが関係しているといえます。また、0番台は勾配区間を越えるために2エンジン車を必要としていたのに対し、北海道では勾配区間よりも冬季に除雪しながら進んでいく必要があり、1両編成でもこれに対応できる強力な2エンジン車が求められたからでした。

 しかし、分散配置したことが後に裏目に出ています。

 確かに、冬季には多くの雪が降るので、線路上に積もった雪を除雪しながら進むためには、強力な2エンジン車が必要でした。実際に、冬季にはキハ40系のようにパワーと粘着力を得るために2両編成で運行することも多かったのですが、これでは利用客の数に対して輸送力が過剰になってしまいます。このため、運用コストも2倍になり、さらに予備車を含めた必要とする車両数は2倍近くになってしまうので、多くの面で不利でしたが、キハ54形は従来の国鉄気動車と比べて、軽量で強力なエンジンを2基搭載していたので、特に冬期は輸送量に見合った輸送力と、除雪も難なくこなせると期待されていたのでした。

 ところが、実際の運用では既存のキハ20系やキハ40系と混用されてしまったことで、その能力を十分に発揮する機会はほとんどありませんでした。また、分割民営化と前後して、都市間高速バスが急速に発達したこともあって、特に札幌都市圏と道東、道北方面では競争が激しくなり、特に運賃面では太刀打ちできない状態に陥りました。これに対抗するためには鉄道の強みである列車のスピードアップが不可欠となり、それに対応できる車両を投入することが必要となったのでした。

 

北海道仕様のキハ54形500番台は、過酷な冬の気候に耐えられるように、客室窓は小型の二重窓、乗降用扉は引戸としてドアレールには凍結防止用のヒーターを設置するなど酷寒地仕様となった。そのため、四国に配置した0番台とは異なり、バス用の部品もほんとど使われていない。キハ40系が運用を退き廃車されていく今日にあって、キハ54形は道東・道北を中心に運用が続けられている貴重な戦力でもある。(©Suikotei, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons)

 

 列車のスピードアップは喫緊の課題になっているものの、経営基盤が脆弱なJR北海道には新たな車両を導入する余裕はありません。そこで白羽の矢が立ったのが、軽量ステンレス車体をもち、強力なエンジンを2基搭載したキハ54形でした。

 1988年にJR北海道は、道内各地に散らばっているキハ54形を旭川と釧路に集約するための配置転換をしました。札幌都市圏から旭川方面へは特急列車が数多く運転されていたので、そこから道東、道東から道北へ向かう列車にキハ54形を充てました。

 旭川に配置されたキハ54形は、函館本線留萌本線、さらには宗谷本線と広い範囲で運用されました。また、ラベンダー畑で多くの観光客が訪れる富良野を結ぶ富良野線や、石北本線の列車にも充てられました。特に宗谷本線は輸送密度が非常に低く、冬季は北海道内でも非常に厳しい気象条件でもあり、キハ54形はその性能と輸送力が最適だったといえるのです。

 一方、釧路に配置されたキハ54形は、根室本線釧路駅以東の普通列車に充てられました。花咲線と愛称がつけられたこの区間は輸送密度が低く、駅によっては1日あたりの乗車人員が1桁台というところもあり、宗谷本線と同様に1両編成で運行できるキハ54形にとってはうってつけの路線でした。

 こうして、道東や道北を仕事場としたキハ54形でしたが、その後は様々な改造を受けることになります。特に、北海道は野生動物が多く自然環境に恵まれ、人の手が入ってない場所が数多くある中に鉄道が走っていますが、そのことが列車の運行に差し障ることもしばしばありました。この中でも野生のシカが線路内に入り、走ってきた列車と衝突するという事故も起こることがあり、車両の破損やダイヤの乱れ、そして動物が命を落としてしまっていました。そこで、線路内に侵入しているシカに対して警告を発する「鹿笛」を装備する改造が施されます。鹿笛は標準的な警笛よりもさらに高い周波数の音を発するもので、JR北海道が運用する気動車の特徴にもなっています。

 

《次回へつづく》

 

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