九州では、多くの観光列車が運行されています。西鉄の「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」や肥薩おれんじ鉄道の「おれんじ食堂」などは、テレビ番組で紹介されることも多い有名な列車ですが、九州を代表する観光列車と言えば、やはりJR九州のD&S列車でしょう。僕はこれまで、九州各地で多くのD&S列車に乗車しており、直近では、2023年9月に1泊2日で鹿児島県と宮崎県を訪れて、念願だった「指宿のたまて箱」と「海幸山幸」に乗車しました。それ以前にも「或る列車」「36ぷらす3」「ふたつ星4047」などに乗車しており、「指宿のたまて箱」と「海幸山幸」に乗車したことで、JR九州のD&S列車はほぼ制覇した気でいました(「ななつ星in九州」は除く。)
そんなJR九州のD&S列車ですが、2024年春の「福岡・大分デスティネーションキャンペーン」に合わせて、同年4月26日に新たな列車「かんぱち・いちろく」号が運行を開始しました。2022年9月の「ふたつ星4047」以来、約1年半ぶりに登場したD&S列車です。新たなD&S列車と言っても、車両は新造ではなく、これまで「いさぶろう・しんぺい」号として使用されてきたキハ47形気動車2両と、中間車用としてキハ125形気動車1両をそれぞれ改造したもので、種車の形式が異なる車両が混在した珍しい編成となっています。さらに内装についても、これまで多くのD&S列車を手掛けてきた水戸岡鋭治氏ではなく、IFOOという会社がデザインを担当しており、今までとはテイストが異なる車内空間となっているようです。
もちろん乗り鉄である僕は、「かんぱち・いちろく」号に乗車してみたいと思い続けていましたが、「或る列車」などと同様、団体専用列車として運行するようで、乗車するためには、旅行会社が発売する旅行商品を購入する必要があります。また、その旅行商品も非常に人気が高く、希望する便になかなか空席が見つかりませんでした。しかし、昨年12月に何気なくJTBの予約サイトを見ていると、ちょうどキャンセルが発生した直後だったのか、土曜日の博多発別府行きの「かんぱち」号の方に空席があったことから、これを速攻で確保しました。列車自体は平日にも運行されているため、おそらく土休日よりも平日の方が予約しやすいでしょうが、僕は仕事の関係上、タイミングよく平日に休暇を取得できるかどうか分からなかったので、確実に休日となる土曜日の便が予約できてよかったです。ちなみに「かんぱち・いちろく」号には、後から紹介するとおり、いくつか座席の種類がありますが、大人数のグループで利用する座席よりも、2名用のボックス席や2〜3名で利用できるソファ席の人気が高いようです。僕は当初、いつものように1人で乗車する予定で2名用のボックス席としましたが、今回の乗り鉄旅について事前に母親に話したところ、自分も一緒に行ってみたいとのことだったため、「かんぱち」号の乗車人数を2名に変更し、それ以外の旅行行程も母親の希望を取り入れながら作成しました。いつもは僕の乗り鉄旅に、ほとんど関心を示さない母親ですが、今回の旅の目的地である別府は、父親との新婚旅行で立ち寄った思い出の場所の一つらしく、もう一度、別府を訪れて「地獄めぐり」をしてみたいとのことでした。ということで、今回は母親を連れての親子乗り鉄旅です。過去の記憶をたどっても、母親と2人だけで遠方に1泊旅行に行くのは、多分初めてだと思います。
前置きはこのくらいにして、早速、今回の乗り鉄旅の様子を紹介したいと思います。なお、普段の一人乗り鉄旅の際には、勝手気ままに自分のペースで行動し、好きなタイミングで写真撮影していますが、今回は母親のことも気遣いながら行動するように心掛けましたので、いつもより写真撮影に充てる時間がありませんでした。その点は大目に見てください。
名古屋駅から東海道・山陽新幹線に乗車
今回乗車する「かんぱち」号は博多駅発なので、まずは名古屋駅から東海道・山陽新幹線で博多駅に向かいます。移動距離が長いため、もちろん「のぞみ」号を利用します。名古屋駅の下り17番線ホームで「のぞみ」5号の入線を待っていると、隣の16番線に「ひかり」631号が入線してきました。どうやら名古屋駅で後続の「のぞみ」号に先を譲るようです。発車標を見ると、「ひかり」631号は僕が乗車する「のぞみ」5号の1分後に発車するようで、東海道新幹線の過密ぶりがよく分かります。17番線では「のぞみ」5号の発車後も新大阪行きや博多行きの「のぞみ」が続きます。
しばらく待つと、乗車する「のぞみ」5号が17番線に入ってきました。ホーム端から先頭車両を撮影したいところですが、そんなことをしていては乗り遅れてしまうため、乗車位置から入線中の新幹線を撮影しました。ちなみに今回乗車するのは、N700スモールA編成でJR西日本所有の車両です。
終点の博多駅までは、約3時間20分の乗車です。名古屋から福岡に行く場合、福岡空港の立地がよく博多駅まで比較的短時間で移動できるため、航空機の方が早くて便利だという意見も多いですが、乗り鉄の僕は新幹線一択です。念のため、同行する母親にも事前に確認しましたが、飛行機✈️は墜落する可能性がゼロではないので、時間がかかっても新幹線の方が安心して乗車できるということでした。親子で意見が一致しました。僕があまり飛行機を好まないのは、ひょっとしたら遺伝なのかもしれません。
今回は母親の希望もあって、グリーン車に乗車しました。もちろんグリーン料金は安くありませんが、せっかくの親子旅ですし、約3時間20分という乗車時間も考慮すると、グリーン料金を支払う価値はあると思い、グリーン車に決めました。思い返すと、僕も「のぞみ」号でグリーン車を利用したのは初めてかも知れません。車内の座席は上の写真のような感じです。これまでにもN700AやN700Sのグリーン車を紹介したことがあり、それと比べてほとんど変化はありませんが、東海道・山陽新幹線では最近になって、座席のヘッドカバーが白布から合皮製のものに変更されたようです。グリーン車のヘッドカバーは座席のモケット柄にあわせてワインレッド色となり、高級感が高まったような印象です。ちなみにヘッドカバーには、N700スモールAのロゴが印刷されていたので、車両形式ごとに専用のものが付けられているようです。
「のぞみ」号は快調に走行し、京都、新大阪、新神戸、岡山、福山、広島、小倉と順に停車していきます。東海道新幹線では、窓側座席で車窓を眺めるのも楽しみの一つですが、山陽新幹線はところによって長いトンネルが連続しており、車窓を楽しむことができない区間があります。母親は乗車前から新幹線からの車窓を楽しみにしていたので、山陽新幹線区間でがっかりしないかと心配しましたが、グリーン車での移動が思った以上によかったようで、満足そうでした。やはりグリーン車は快適さが違いますね。長時間の乗車でしたが、僕も全く疲れることはありませんでした。
博多駅から特急かんぱちに乗車
博多駅到着後、一旦、新幹線の改札を出て在来線の改札から再び入場しました。「かんぱち」号は団体専用列車扱いですが、事前に旅行会社から乗車票の送付はなく、メールで送られてきた最終旅程表を提示して入場する必要があります。有人改札でメール画面を見せると、駅員さんが4番線から発車すると教えてくれました。
ここで少し、「かんぱち」号について紹介したいと思います。先にお話ししたとおり、「かんぱち」号は、昨年の4月26日に運行を開始したJR九州のD&S列車です。運行区間は、特急「ゆふ」号や「ゆふいんの森」号と同様、久大本線経由で博多―別府間を結んでいます。列車名は、上りと下りで異なっており、僕が乗車する博多発別府行きは「かんぱち」号、別府発博多行きは「いちろく」号と呼ばれており、基本的には木曜日を除く毎日、上りと下りが1日1便運転されています。
使用されている車両は、「かんぱち・いちろく」専用の気動車で、キハ47形気動車とキハ125形気動車を種車として改造された2R形気動車となっています。JRの気動車としてはちょっと変わった形式名ですね。
そして、下り列車である「かんぱち」号のダイヤは次のとおりです。博多駅を発車した「かんぱち」号は、途中の田主丸駅と恵良駅でおもてなし停車をした後、由布院、大分そして終点の別府駅に向かい、博多―別府間を約4時間40分かけて走行しています。
話しが少しそれてしまいましたが、僕が4番線に到着した時点では、まだ「かんぱち」号は入線していませんでした。4番線付近や待合室には、スーツケースや大きなカバンを持った旅行客らしき方々が多くいらっしゃり、僕と同じように「かんぱち」号の到着を待っているようです。出発時刻の10分くらい前になったところで、ようやく「かんぱち」号の2R形気動車が姿を現しました。JR九州には以前、「はやとの風」というD&S列車(2022年3月に運行終了)がありましたが、その外観を思い起こさせる漆黒の車体となっています。ホーム上からの写真撮影を済ませ、早速乗車します。
車内でいただくイタリアン
僕が「かんぱち」号への乗車を楽しみにしていた理由は2つあります。1つ目は、まだ乗車したことがないD&S列車に初めて乗車することで、2つ目は、車内でいただけるオリジナルの食事です。この食事は曜日ごとに内容が異なっており、土曜日は博多にあるイタリアンの名店「FUCHIGAMI」の料理が提供されます。今日はこの昼食にあわせて、朝食は軽めのもので済ませておいたので、出発早々ですが僕のお腹はペコペコです。発車後すぐに食事が提供されるものかと待っていましたが、時間がかかっているようでなかなか提供されません。そわそわしながら待つことしばし、お重に入った料理が運ばれてきました。早速、ふたを開けて見ると、見た目にもきれいな品々が並んでいます。


ちなみに、こんなしっかりとしたお品書きもいただきました。
一見すると量が少ないようにも見えてしまいますが、緑野菜のクスクスとマッシュドポテトはしっかりと詰め込まれており、昼食としては全体として十分な量です。一つ一つの料理をお品書きと照らし合わせながら、ゆっくりと時間をかけていただきました。僕にとっては、どれも目新しく新鮮な感じがするものばかりでした。もちろん完食です。
車内の座席や設備など
続いて「かんぱち」号の車内設備を紹介します。1号車から3号車までありますが、車両ごとに特徴ある内装となっていました。実際に見て見ると、これまでの水戸岡鋭治氏が手掛けてきたD&S列車とはやはり違いがあります。
1号車
1号車は、一言で表現すればズバリ『赤』です。別府エリアをモチーフにしたデザインで、火山や温泉を想起させる色として選ばれたそうです。車内の座席は3種類で、3名定員のソファ席が5区画、ボックス席は4名定員と6名定員のものがそれぞれ1区画ずつ、6名定員の畳個室が1区間あります。ソファ席は乗客の方がおもてなし停車中に席を外されたタイミングで撮影できましたが、ボックス席や畳個室は暖簾で区切られた先にあるため、どんな様子か実際に見ていませんし、もちろん撮影もしていません。赤色の効果というべきか、車内全体に温もりが感じられて活き活きとした感じですね。
2号車
2号車には、乗客用の座席は設けられておらず、車両全体が共用スペース「ラウンジ杉」となっています。車両中央部には一枚板のカウンターがあり、これは樹齢約250年の杉から作られたものなんだそうです。このラウンジスペースはビュッフェの役割も担っており、飲み物やおつまみ、オリジナルグッズの販売が行われています。僕もここで「果樹農家の梨まる搾りジュース」を購入しました。乗客の中には、このカウンターで立ち呑みを楽しんでおられる方もいました。
3号車
3号車は、久留米エリアをモチーフにしたデザインで、雄大な平野や山々を想起させる『緑』と『青』を基調とした落ち着きのある空間となっています。車内の座席は2種類で、2名定員と4名定員(一部は3名定員)のボックス席がそれぞれ4区画ずつ、6名定員の畳個室が1区間あります。ちなみに3号車にある2名定員のボックス席は、追加料金を支払うことで1名での利用も可能となっています。1号車と同様、畳個室は暖簾で区切られた先にあるため、撮影していません。
途中駅でのおもてなし停車
運行ダイヤでも紹介しましたが、「かんぱち」号は、途中の田主丸駅と恵良駅で停車し、地元の方によるおもてなしや地域の特産品の販売が行われます。観光列車ならではの楽しみの一つです。では、両駅の様子を紹介しますね。
田主丸駅
田主丸駅では約12分停車します。今回は、車内での食事の提供が遅くなってしまったからか、到着時にはまだ食事中の方もいらっしゃり、途中で食事を中断して下車されている方もおられました。田主丸駅は河童の形をしたユニークな駅舎が特徴です。この地域では、何か河童にまつわる伝説でもあるのでしょうか? ちなみにこの日の「かんぱち」号は男女共用トイレが故障で利用できなくなるトラブルがあり、停車中に駅舎のトイレを利用する方が行列となっていました。せっかくのおもてなしですが、特に女性の方はトイレの順番待ちで12分が経過してしまったようで、ちょっと気の毒でした。
せっかくなので、田主丸駅でも「かんぱち」号を撮影しました。博多駅のように混み合うことがないため、落ち着いて撮影することができました。
恵良駅
2つ目の停車駅は恵良駅です。「かんぱち」号の列車名の由来となった麻生観八氏が再興した酒蔵の最寄り駅で、白壁とナマコ壁を用いた外観となっており、同氏の功績を紹介する史料館が併設されています。恵良駅では地域の特産品だけでなく、日本酒の販売と試飲が行われていました。僕はほとんどお酒を飲めないので縁がありませんが、かわりに地元のヨーグルト飲料を購入しました。停車時間は約16分ありましたが、やはりトイレ待ちの方が多く、せっかくの停車時間を楽しめなかった方も少なくなかったようです。
停車中に、反対側のホーム付近から編成全体を撮影してみました。1・3号車と中間の2号車では種車が異なっていることがよく分かります。
恵良駅を発車した「かんぱち」号は、最初の降車駅である由布院駅に到着しました。由布院駅に停車中、ちょうど向かいのホームに博多行きの「ゆふいんの森」号が入線してきました。また、場所は忘れてしまいましたが、どこかの駅で「或る列車」との行き違いもありました。さすがはJR九州で、D&S列車をよく目にします。僕は以前の乗り鉄旅で「ゆふいんの森」号や「或る列車」に乗車していますが、久しぶりに実際の車両を目の当たりにすると、また乗車したいという気持ちが沸いてきます。特に「ゆふいんの森」号については、いわゆる“一世”には乗車していますが、“三世”には乗車していないので、いつかは乗ってみたいと思っています。
始発の博多駅からここまで、「かんぱち」号は満席状態でしたが、由布院駅で多くの方が下車されて、乗客はここまでの半分以下となってしまいました。僕は、「かんぱち」号のほとんどの乗客が終着の別府駅まで行くものと勝手に思い込んでいたので、まさかこんな状態になるとはびっくりです。その後、大分駅でも停車して、ついに別府駅に到着しました。観光列車に乗車するといつも感じることですが、今回も約4時間40分という長時間乗車にもかかわらず、終わってみればあっという間でした。時間が早く過ぎたように感じるということは、それだけ楽しく、充実した乗り鉄旅だったということなんだと思います。
別府駅では、ここまでお世話になった「かんぱち」号をもう一度、撮影してみました。機会があれば、今度は「いちろく」号で乗車してみるのも、また違った発見があって楽しめるかもしれません。
記念乗車証の紹介
紹介が前後しますが、車内では記念乗車証をいただきました。見開きになっていて、内側のページに「かんぱち」号と「いちろく」号それぞれのスタンプを押印することができます。両方の記念スタンプを揃えるのはなかなか難易度が高いですね。ちなみにスタンプは重ね押しができるようになっており、3種類を押し終えると下のようになります。


別府駅でも、最終旅程表のメール画面を見せて有人改札から出場しました。駅前には、別府観光の生みの親と言われている油屋熊八氏の銅像があります。同氏の偉業を称えて造られた銅像だと思いますが、このポーズの意図は分かりません。
時間はまだ午後5時少し過ぎたくらいで、まだまだ移動は可能ですが、欲張ってあまり行程を詰め込むのもよくないと考え、今日はここ別府で一泊します。別府駅からは、予約しておいた宿泊施設に徒歩で向かいますが、ここで記事は一区切りとし、次回に続きます。