JR東日本は2025年6月27日をもって「週末パス」の発売を終了すると明らかにした。「週末パス」を廃止する理由について私になりに考えてみた。憶測を含むため必ずしも正確ではないと言う点はご容赦いただきたい。

 

【「週末パス」とは?】

おトクなきっぷ:JR東日本

 

週末パス - Wikipedia

 

↑これについては公式サイトやWikipediaの説明を参照されたい。ざっくり言うと南東北・甲信越から首都圏までのJR東日本線と接続する一部私鉄各線(大手私鉄と地下鉄は対象外)に土曜日開始の2日間(月曜日が祝日の場合は日曜日開始も発売する)乗り放題になる商品である。値段は8,880円で前日までの発売である。JR東日本線の新幹線と特急は別途特急券を購入すれば乗車可能だ。

 

【「週末パス」廃止をめぐる報道やネット上の指摘】

東日本の鉄道路線の「乗り潰し」や、周遊旅に便利なきっぷですが、東京~仙台間を往復するだけでも元をとれる非常におトクなきっぷです。例えば自由席の通常料金で東京~仙台間を往復した場合、料金は2万1120円ですが、「週末パス」を利用すると1万7920円で済みます。  JR東日本によると、週末パスを廃止する理由は「ご利用状況などを総合的に勘案した結果」(広報部)とのこと。「近年は発売実績が落ち込んでいたほか、『えきねっと』などのIT商品にシフトさせていきたいと考えています」と話します。

 

なぜ? JR東日本が「週末パス」を廃止する理由とは 前身のきっぷ含め20年以上の歴史に幕(乗りものニュース) - Yahoo!ニュース

 

JR東日本・東北本部長: 

「インターネットでの販売が主力になってきてから単純に曜日だけで割るのではなく、列車の予約の進捗状況などと絡めながら利用が比較的低調な列車については大きな割引ができるような枠の設定がいまのネット販売では可能になってきた。新幹線の使いやすさや値段などを見ながら利用する列車を決めてもらう利用方法が現在の主力かなと思っている。一律土日だけこういう金額で乗車券タイプでという週末パスは、発売枚数も昔と比べるとかなり低調で、えきねっとや新幹線eチケットサービスの利用が中心になってきている。そうしたお客様の利用形態の変化に応じて今回商品の見直しを行った」

(Q、東北エリアへの誘客など影響は)

 「えきねっとや新幹線eチケットなど現在のバラエティ豊かな商品やインバウンド向けの様々な商品、観光地そのものを盛り上げるキャンペーンなどで十分カバーできると考えている」

 

JR東日本『週末パス』6月で廃止「昔と比べかなり低調に…ネット割引など利用形態の変化に応じた判断」(tbc東北放送) - Yahoo!ニュース

 

 

JR東日本が発表したプレスリリースによると、えきねっとの新幹線eチケットや在来線チケットレス特急券の利用を勧めると書かれていたが、指定されたエリア内を自由に乗り降りできる週末パスと、指定された区間を1度しか利用できないえきねっとの各特急券では、その効力に大きな違いがあることから、SNS上では「青春18きっぷの改悪に引き続いて、気楽な鉄道旅行ができなくなってしまう」という困惑の声が広がっている。

 翌2月20日にJR東日本は訪日外国人旅行者向けの「JR EAST PASS (Tohoku area) 10日間用」を新たに発売すると発表した。これはJR東日本の首都圏から東北方面の新幹線と特急列車に加え、指定された第三セクター路線と私鉄路線が乗り放題になるもので、価格は48,000円だ。これまで販売されていた5日間用も30,000円で引き続き販売される。

 日本人向けの乗り放題切符の縮小が続く中での、訪日外国人旅行者向けの乗り放題きっぷの充実は、多くの国内利用者をさらに困惑させているようだ。SNS上には「外国人や高齢者には優遇して、若者や現役世代からお金をむしり取るって、どこかの機関と同じような動きではないか」という絶望の声も見受けられた。

 2025年2月に入り、中華圏での春節を迎えたことから、国内には多くのインバウンド旅行者が訪れ、地域によっては地元の利用者が乗れないほどに、鉄道やバスといった公共交通機関が混雑する事例も生じている。こうした日本人向けの乗り放題きっぷの販売が縮小し、外国人向けの乗り放題きっぷの販売が充実する中で、今後われわれ日本人が国内旅行すらしにくくなってしまうような社会となってしまうことが心配だ。

 

JR東日本、「週末パス廃止」の一方で「訪日外国人向けパス」充実が、日本人旅行者に与えた絶望感(鉄道乗蔵) - エキスパート - Yahoo!ニュース

JR各社では近年、紙の切符を廃止する動きが増えており、JR東でも2026年度末に磁気付き近距離切符のQRコードへの置き換えを発表している。

今回の発表を受け、X(旧ツイッター)には「終わらせていいわけないだろ!」「代替すらないのか」「最近はこんなんばっかだな、JR」と、ユーザーからの怒りや嘆きの声が続々。「痛すぎる…仙台に気軽に行けない」「いつかこれ使って旅行したいと思っていたのに」と終了を惜しむ声や、「雑に遠出するのに超便利だったのに」「特急料金も別途買えば新幹線だって乗れたのに」と切符の利便性への指摘も見受けられた。また、この日は東北新幹線が2度にわたって運転を見合わせたことから、あるユーザーは「週末パス廃止にした呪いだよこの野郎」と吐き捨てていた。

 

JR東日本、「週末パス」販売終了にファン嘆き「終わらせていいわけない」「最近はこんなんばっか」 - イザ!

 

磁気券の廃止視野

JR東日本では、今後、近距離乗車券について、磁気乗車券からQR乗車券へ置き換える方針を明らかにしています。また、新幹線では交通系ICカードを中心としたチケットレス乗車に力を入れています。

近い将来に、すべての磁気乗車券が姿を消すわけではないでしょうが、磁気券で販売されているきっぷを、縮小・廃止していく方針であることは確かでしょう。

そうした状況で、「週末パス」や「首都圏週末フリー乗車券」が姿を消すのは必然で、時間の問題だったともいえます。

 

「週末パス」終了の必然。デジタル化推進で、紙のフリーきっぷに終焉の兆し | 旅行総合研究所タビリス

 

【「フリーきっぷ」「乗り放題きっぷ」そのものをどう考えるか?】

「週末パス」廃止の報道やネット上の議論を見ると、「値段」、「利用日」、「利用範囲」、「発行形態」…この事だけが独り歩きしている。

例えば「都区内パス」(1日760円で東京23区内のJR東日本線が乗り放題・除外日無し)については今の所廃止の話は出ていない。これはそもそも東京23区内を決まった額で自由に移動すると言う”手間省き”を解消する目的の方が大きい。

JR東日本としてはSuica利用で定価の運賃分は稼いでおきたいのが本音である。たかが改札機にタッチするだけとは言うものの乗車の都度お金を払っている(金額の大小に関係なく)のは、たまに来た人(観光客・特に地方在住者や外国人)にとってみれば、都区内の移動でも鉄道(公共交通機関)を使う選択肢が生まれない。

値段が高くても渋滞があっても良いのでレンタカーやタクシーで移動した方が便利とも考える人は少なからずいる。そうするとその都度お金を払って鉄道に乗る…のは抵抗感がハンパない。

それならサブスクみたいに「定額乗り放題」にしておいた方が限られた範囲ではあるが、シームレス(自由)に移動出来る約束があった方が良いに決まっている。そのエリアが広いのが「週末パス」であったり、「青春18きっぷ」なのである。

だが将来的にはフリーきっぷ・乗り放題きっぷそのものを全廃するだろう。それは後術の「定価運賃」で乗せる事を前提に移行しているのが実態だからだ。公式にはその点は否定するのだろうが、今の商品構成・営業姿勢を見る限りそう考えざるを得ない。

 

【JR東日本は「点対点輸送」しか考えていないのか?】

要するにそう言うことだと私は思う。それは「えきねっと」の現状の商品構成を見ればわかる。この点はJR東海・西日本・四国・九州のネット販売では意外にも偏りがなかったりする。

JR東海の「EX予約アプリ」なんて意外にも商売上手で、新幹線は片道利用商品にするが乗車区間によっては自由席利用でも多少割引があったり(例えば東京~静岡など)、目的地では観光地や他の交通手段利用とセットに組み込んだ”準旅行商品”と言うか”令和版周遊券”と言いたくなるような商品展開をしている。ポイントなのは単に交通手段だけを商品として組み込んでいない事。観光地の入場料の割引、物販のクーポン配布等一歩踏み込んでいる。なんなら子会社のJR東海ツアーズの旅行商品もちゃっかり発売していたりもする。

ところが、JR東日本の「えきねっと」にはこの手のものがない。探せば「JR東日本ダイナミックレールパッケージ」とかいろいろあるが、正直その辺は”事前知識”が無いとその商品の購入場所までたどり着かない。何も知らない状態で単に「えきねっと」を見ているだけで、目的地の周遊商品の提案はあまりなされていない(一応レンタカーや宿の紹介はあるがこの辺は楽天トラベルでもフツーにやっている)。”踏み込みどころが悪い”のが印象である。

むしろJR東日本が強化しているのは「点対点輸送」(A駅→B駅の単純な片道輸送)だけで、目的地に着いたら以後はウチでは関わらないと言わんばかりである。

それならば片道の鉄道料金だけは割引しておくが、以後の鉄道料金はサブスクなんて言う考え方は無い等しく、定価でSuicaタッチで十分便利だと言っているも同然だ。何なら「えきねっとQチケ」と称するQRコード乗車券を2024年10月から東北で開始し2027年度中にはJR東日本全線で対応可能となる。要は端末がICカード(またはスマホタッチ)→QRコードをかざすに変わっただけである。

「紙のきっぷは全廃するので、これからはSuica(従来のICカード)かスマホで乗ってくれ」

と言う意図がまるわかりだ。それはそれで結構なのだが「商品構成」を考えると”単品”主体になっている傾向が強くなる。”セット”商品が無い飲食店に誰が行くのか?と言う話である。

割引きっぷはあるが、それは”単品片道”のみの話で往復ではやらない。しかも発売数量限定である。JR九州みたいに乗車当日の新幹線自由席でも割引しますと言う姿勢が全くない。以前から指摘しているが「定価主義」なのである。極力割引はしたくないという露骨な姿勢がわかる。

だが、今や「必ずしもJRでないと移動出来ない」わけでもない。自動車(レンタカー)でも、高速バスでも、LCCでも良い。むしろそちらの方がシームレスな移動が実現出来たりもする。「週末パス」廃止の姿勢から見ればわかるが、ある程度の客は他に奪われるだろうし、その点はJR東日本も”織り込み済み”である。「週末パス」廃止の分が減収になっても、”単品片道”の販売数を増やせば減収分なんて簡単に帳消しに出来る。むしろ”単品片道”で条件付き(枚数限定や14日前までの購入等)ながらも割引の方が商売としてはおいしい。その拡販に移行していると思う。JR東日本とJR北海道に関しては。

 

【JR東日本は「定価運賃」で確実に稼ぎたいのが本音】

「えきねっとトクだ値」の在来線特急を見るとこの点がわかる。昔は乗車券+特急券込みの割引であった。これが2022年頃に変更になって「特急券のみの割引」になった。乗車券は「定価運賃」なのである。

とは言っても直接的な表現はしていない。「Suicaで乗ってくれ」である。「いちいち紙のきっぷを改札機に入れなくても(財布から紙のきっぷを出し入れしなくても)Suicaをタッチすれば簡単でしょ」と言っているようなものである。

つまり、「定価運賃は確実に稼ぎたい」と言う本音がわかる。そのため割引対象も運賃部分は廃止し特急券部分に移行している。粗利率としては運賃部分が高いに決まっているので(乗れば乗るほど比例して収益も増す)ここを「定価運賃」にしたいのは言うまでもない。

 

【「フリーきっぷ」「乗り放題きっぷ」を完全チケットレス化する試金石なのは淡い期待か】

そういう期待も出来なくは無い。紙のきっぷでの割引きっぷは廃止するので今後はチケットレスのみでしか発売しない…と言う試金石なのか?

とは言ってもタイミングとしては見切り発車の感がある。そもそも「Qチケ」はJR東日本全線では2025年2月時点では使えていない。まだ少し先の話である。だったら全線で使えるまでは紙のきっぷである「週末パス」は存続しておき、全線で使えるようになった時点で「週末パス」は廃止し、同効力(またはそれ以上)のフリーきっぷ・乗り放題きっぷを発売すれば良い。現にJR西日本やJR四国はこの姿勢である。だが、JR東日本ではそれを行う感じが全くしない。と言うか期待もしていない。