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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

東根室駅に行ってきました

 

 日本最東端の鉄道駅の東根室駅が2025年3月15日ダイヤ改正で廃止になります。最後の日が迫る中、久々に出かけることにしました。

 

 

 不採算路線や駅の廃止を進めるJR北海道。今年のダイヤ改正では、日本最東端に位置する東根室駅が廃止対象となりました。

 東根室駅は今から20年あまり前、初めての北海道旅行で訪れた駅です。探してみると、当時の写真が僅かに残っていました。

 

 

 ただ、それ以来再訪の機会がないまま、昨年末に発表されたダイヤ改正東根室駅が廃止になることを知りました。JR北海道の路線や駅が相次いで廃止になっているのは周知の通りですが、最東端の駅がなくなるというのはインパクトがあります。それらの路線や駅の最後の姿はほとんど見られていないのですが、せめてこの駅だけでも見届けておこうと思い、先日出かけてきました。

 

 

 高知から羽田、新千歳と飛行機を乗り継いで、根室中標津空港に。この空港も東根室駅と並ぶ最東端(日本の法律に基づく最東端の空港)になっています。

 

 

 空港から根室へは、バスでさらに2時間ほど。途中市街地もありますが、ほとんどは広々とした丘陵地帯が続きます。夏場であれば畑や牧地なのでしょうが、今はまだ荒涼とした雪原です。

 

 

 バスは定刻通り根室駅前に着きました。ここから東根室駅へと向かいます。

 

 

 根室駅の駅舎に入りました。待合室には、廃止前の東根室駅を労う小さな展示が置いてあります。それなら東根室駅に置けばいいじゃないかと思われるかも知れませんが、後で見るように東根室駅は屋根なしホーム1面だけの無人駅、とても何かを置ける場所ではありません。

 

 

 今は途中区間が廃止になって分断されてしまいましたが、根室本線はもともと滝川から根室までを結ぶJR北海道の幹線。その東の終点が根室駅で、「日本最東端の有人駅」となっています。

 もっとも、東根室駅が廃止される2025年3月15日からは、この駅が名実ともに日本最東端となりますし、有人駅でいられるのも何時までのことか、とは思いますが。

 

 

 根室本線の中でも東端にある釧路から根室区間は「花咲線」という愛称がつけられ、観光PRもなされています。もっとも、その名が由来する花咲漁港の近くにあった花咲駅は既に廃止になっているのですから皮肉なものです。

 ところで、根室本線根室が終着駅なのに、なぜ最東端の駅は東根室駅なのかと不思議に思った方もいらっしゃることでしょう。あるいは、東の端にあるはずの根室で、東根室駅が途中駅でかつ最東端になっている、というのが解せない方がいても不思議はありません。

 

 

 その理由は根室本線の線形にあります。先程の観光マップを拡大しました。画面中央近くを見てみると、根室駅があってその右に東根室駅があります。実は、根室本線は終点の根室駅の手前まで北東に向かうと、そこから北西に大きくカーブして、終点の根室に向かっています。そのカーブの途中で、ですから根室駅より東に設けられているのが、東根室駅なのです。

 ちなみに、かつては根室から東、納沙布岬方面にも鉄道が伸びていて、日本の最東端にある駅はその終点の歯舞駅でした。詳細は「根室拓殖鉄道」で検索してみてください。特にWikipediaの記述は笑えますし、画像検索を見ているだけでお腹いっぱいです。

 

 

 窓口で乗車券を買いました。以前は券売機があったのがなぜか廃止になったそうです。

 

 

 根室駅発着の列車時刻表。到着発車とも1日6本になっていますが、次回ダイヤ改正で最初の到着・発車の列車が廃止になります。

 

 

 改札を経てホームに入りました。かつては貨物で賑わっていたであろう広大な敷地にホームは1本だけ、残る線路もかなり古びていて、どれだけ使われているかは怪しいものです。

 

 

 根室駅折り返し、釧路行きの普通列車。以前は急行があったり、臨時で夜行列車が乗り入れることもあったようですが、今は基本1両のみのワンマン列車が釧路との間を行き来するだけです。

 

 

 温度計があったので見るとマイナス1℃。思ったほど気温は低くありません。この辺は既に3月になったからというところでしょう。

 さて、列車は到着こそ遅れたものの、定刻通りに根室駅を発車。根室の市街地を右に曲がりながら走っていきます。

 

 

 2分ほどすると、東根室駅が見えてきました。廃駅の知らせを聞きつけて来たマニアが、最後の乗車機会を待っています。

 東根室駅はご覧の通り、単線の線路のカーブに板張りのホームが1面のみ付けられただけのもの。この手の駅にしてはホームが長い方ではありますが、駅舎はもとより待合室もありません。

 

 

 東根室駅に着きました。カーブの途中で身を傾けながら、列車が停まっています。

 

 

 列車は乗客を数人降ろしてすぐ発車。

 

 

 ここから釧路まで、100km以上を駆けていきます。

 

 

 列車が去った駅。この線路が釧路を経て、北海道から本州へと渡り、さらに九州に入って最西端のたびら平戸口駅松浦鉄道)までつながっているのです。無論、高知にもつながっています。

 

 

 東根室駅の駅名標と、その傍らには「日本最東端の駅」の標柱が立っています。ただ、その役目も終わりの日が迫っています。その後どうなるのでしょうか。

 

 

 東根室駅の駅名板。これもあと1カ月と発たないうちにお役御免です。

 

 

 根室方面。奥にある跨線橋を越えると線路は左に曲がり、根室駅に近づいていきます。

 

 

 ホームから降りてきました。階段も駅前も砂利敷で舗装されていません。

 

 

 最東端の駅を示す柱の横には、以前来た時になかったベンチが置かれています。とはいえ、厳寒期に吹きっさらしの中で列車を待てる人がどれだけいるとも思えないので、使えるとすれば記念撮影用ぐらいでしょう。

 これで一通り駅を見てしまい、近くに何があるわけでもありません。そして日本の市としては最東端の地に、夕暮れ時ははるかに早く訪れ、気温も下がっていきます。名残惜しくはありますが、東根室駅を後にすることにしました。

 

 

 駅からの一本道を少し歩いて、東根室駅を振り返ってみました。

 今から20年と少し前、あらゆる方向で展望のない大学院生だった自分がふと思い立って訪れた駅。当時自分がどんな思いでこの駅を訪れたかは、もはや思い出せません。

 ですが、それから気づかぬ間に過ぎ去った年月を経た今、再びこの場所に来て生まれる感覚は確かです。「寒い」

 

 さて、「廃駅」というと、かつては賑わっていたものの過疎化が進み、駅や路線の利用者がほとんどいなくなってしまったというイメージがあると思います。で、たいていはそういうケースになるでしょう。

 ところが見てきた通り、東根室駅は根室市の住宅地の中にあります。もちろん人口減は進んでいるでしょうが、住宅地の中ですから影響は相対的にマシな地域なはずです。

 にもかかわらず、駅が廃止になるのはなぜか? これについては『乗りものニュース』の解説が当を得ていると言えそうです。

 

trafficnews.jp

 

 つまり、列車が少なすぎて使い物にならないのです。

 

 

 実際、先程の駅からの道を数分歩くと、すぐにバス停が目に入りました。バスは朝から夕方まで、交互にほぼ1時間に1本出ているので、市内に用事があるならそちらを使うのが便利なわけです。さらに、釧路に行くにしても長距離バスがありますし、クルマがある人はそちらを使うでしょうから、鉄道の必然性はまずありません。

 そう考えると、駅の主だった需要と言えば特殊な旅行者の特殊な観光需要ぐらいで、むしろそれでよく今日まで駅がもったものだとすら思えてきます。

 なのでわれわれもここからバスに乗っても良かったのですが、マイナス1ケタなら高知でも経験済の寒さです。駅近くのホテルまで、まち歩きをしてみることにしました。

 なるべく線路に近い道路をぶらぶら歩き、先程駅の先に見えた跨線橋へ。

 

 

 橋の上から根室本線の線路を眺めます。カーブが直線になり、その先で再び右に曲がる辺りに、東根室駅が小さく見えます。

 最東端というものものしげな冠がありながら、あまりにさりげない無人駅は、さりげないままその歴史を終えようとしています。

 

 ……って、ちょっと待て!左!!左の土手!!!

 

 

 何やら物音がするので見てみたら、シカですよシカ!それも複数いるじゃないですか!

 

 

 見たところエゾシカの親子のようです。郊外ならまだしも、こんな街中にも出てくるんですね。高知市内で見たことがあるのはタヌキぐらいなので驚きました。

 しかし考えてみたら、列車のいない時間帯で本当に良かったなぁと。