前々回の記事では、国鉄の151系特急形車両を称賛しました。ただ、それはあくまでも京阪の2000系列より優れているというだけで、手放しに褒めちぎるのは違います。
とはいえ「151系」を批判したいわけではありません。ここで責められるべきは「国鉄」です。
1958(昭和33)年から製造が開始された151系は、裾を絞って最大車体幅を広げる規格を採用し、快適さの向上を実現しました(注)。その後、急行形車両や近郊形車両もこれにならっています。「近郊形」は位置付けが難しいのですが、概していわゆる快速系統に重なると思って頂ければ、遠くないでしょう。
それよりも問題なのは、国鉄の「通勤形車両」です。こちらは長らく裾を絞らず、車体幅の狭い規格で製造され続けました。理由は一つしか思い当たりません。「特急形や急行形、近郊形に比べて通勤形は格下」との固定観念に縛られたからです。
その通勤形車両の車体幅をようやく広げたのは、JR西日本の207系電車です。製造初年は1991(平成3)年、151系から数えること実に33年目です。207系といえば、あの悪名高き福知山線脱線事故を起こした車両ですが、車体の規格が原因ではありません。よって、ここでは責任問題に触れないものとします。
国鉄改めJRの通勤形車両の座席は、ほとんどが窓に背を向け、通路を挟んでベンチ状に設置される「ロングシート」です。比較的乗降しやすく、詰め込みも効くのがその理由です。列車の進行方向または逆方向に設置される「クロスシート」は、原則として用いられません。
ロングシートの一例(神鉄2000系)
ここで車体の「裾絞り」の効果を再検証すると、側壁に設けられるロングシートは、背もたれをカーブに沿わせて通路幅を広げることができます。すなわち、クロスシートの場合以上にその真価が発揮されるのです。207系は1両の定員が旧型車両より15人前後も増え、のちに他のJR各社も追随しました。これは、例えば10両編成を11両に増結したのと同等の効果です。
151系の誕生から分割民営化までの29年間、国鉄はいったい何をしていたのでしょうか。高度成長期には、急増する輸送量に輸送力が追いつかず、ラッシュ時は定員の200%どころか300%に達する列車も走っていたほどです。その混雑の凄まじさは、現在の比ではありませんでした。
本来は、最も混む通勤形車両こそ、優先して車体の幅を広げるのが当然だったはずです。もっと早く151系の規格を採用していれば、運ばれる側はもちろん、運ぶ側さえもいくらかは楽になったものを…。国鉄の頭がいかに固かったか、この一事をもってしても分かろうというものです。
さらに国鉄では、回転クロスシートや転換クロスシートは特急用、急行型と近郊型はグリーン車を除いて背もたれが直角のボックスシート、そして通勤型はロングシートというのが暗黙の了解でした。戦前から今に至るまで料金不要列車に転換クロスシートを多用し、国鉄の不文律を崩してきたのは京阪であり、名鉄とともにツートップを成しています。
阪急の2800系も国鉄の117系も、京阪の特急車両なくしては誕生しなかったかもしれません。この記事の冒頭では京阪を批判しましたが、その名誉を最後に挽回させて、結びといたします。
(注) 1955(昭和30)年から製造された国鉄10系客車は、その寝台車・特別二等車・食堂車において、151系電車と同じ車体断面を採用していますが、それが先のことか後のことかまでは判別できませんでした。なお、151系は製造初年の段階では20系と名乗っていましたが、翌年に改番しています。
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