熊本市電5000形の思い出 | あさかぜ1号 博多行
2025-02-22 10:02:56

熊本市電5000形の思い出

テーマ:鉄活動日記 思い出編

今日、1978年以来47年にわたり活躍を続けていた熊本市電の連接車5000形の最後の1両(1編成)となっていた5014号が営業運転を終了しました。
熊本市電5000形は、もともとは西鉄福岡市内線で活躍していた1000形で、同線の路線縮小(後に全廃)に伴って1978年に4編成が熊本市電に譲渡されたものでした。
現在は西鉄福岡(天神)ー大牟田間を結ぶ天神大牟田線と西鉄二日市ー太宰府間を結ぶ太宰府線、それに貝塚ー西鉄新宮間の貝塚線の3路線がある西鉄(西日本鉄道)ですが、かつては北九州市内(北九州線・北方線)と福岡市内(福岡市内線)に私鉄としては規模の大きな軌道線(路面電車)の路線を展開し、各線では一般的なボギー車とともに輸送力の大きな2車体または3車体の連接車が数多く活躍し、全盛期にはその両数が約100両に及ぶ「連接車王国」を形成していました。
西鉄の軌道線の路線縮小が始まると余剰になった連接車の一部は西鉄系列の筑豊電鉄をはじめ広島電鉄、それに熊本市電へ譲渡されて再度の活躍をすることになりました。
熊本市電に譲渡されたのは福岡市内線の1000形4編成(1010・1011・1014・1015号)でした。熊本では形式が5000形となり、車号は西鉄時代の車号の千の位の1を5に変えただけで使用されました。つまり、このたび引退した5014号の西鉄時代の車号は1014号だったというわけです。
5000形は、熊本市電の他の車両(ボギー車)よりも定員が40人以上多い輸送力の大きさを買われて主に朝のラッシュ時の助っ人として活躍し、その運用形態は基本的に引退まで変わらなかったようです。(まれに朝以外の時間帯にも多客時に営業運転に入ることがあったようです)
そんな5000形も老朽化や新型の低床車の導入などにより4編成とも2009年までに運用を離脱。5014号以外の3編成は廃車されましたが、2002年に西鉄時代のベージュとマルーンのツートンカラーに塗装が復元されていた5014号は解体されずに残り、2017年には整備を受けて8年ぶりに現役に復帰しました。
復帰後も以前と変わらず朝のラッシュ時の助っ人としての活躍が続き、熊本市電100周年を記念して昨年熊本市交通局が開催した市電車両の人気投票「推し電総選挙」では見事1位に輝きました。
しかし補修部品が確保できなくなったことから、このたび検査期限切れとなる今日をもっての営業運転終了ということになりました。

さて、そんな熊本市電5000形ですが、私は残念ながら乗車する経験はできずじまいになってしまいました。
私自身、過去数回の九州への鉄道旅の時に熊本市電にも何度か乗車していますが、先ほども書いたように5000形は基本的に朝ラッシュ時の2~3往復の限定運用で使用されていたため、日中にふらっと乗りに行って乗車できる車両ではなかったのがその理由です。
しかし、その代わりというか、たまたま運よく本線で稼働中の5000形に遭遇することができた経験が2度ほどあるので、今回はその時の思い出を記したいと思います。

一度目は1989年3月のこと。
この時、私は高校の修学旅行で九州を訪れていました。
前日に鹿児島から熊本に移動して市内のホテルに泊まった翌日、朝ホテルを出て貸し切りバスでこの日最初の見学場所である熊本城へ向かっていました。
市電も走る市内中心部の幹線道路を朝の渋滞の中ゆっくりと走っていると、道路の真ん中のレールを頻繁に市電が駆け抜けていきます。バスガイドさんも熊本市電について簡単ながら説明してくれ、路面電車好きにとっては渋滞もなかなか楽しいといったところでした。
そんな中、不意に後方からやってきてバスを追い抜いて行ったのが5000形(車番は覚えていません)でした。5000形が朝ラッシュ時のみ運転されることはすでに知っていましたが、詳しい運行ダイヤまで知っていたわけではなかったので、そのようなレアな車両に事前情報なしでほんの一瞬とはいえ出会えたことに、バスの中で一人興奮を覚えた私がいました。

それから18年後の2007年の夏休みの九州への鉄道旅の折、熊本市電にも数回目の乗車をしました。
朝のラッシュ時間帯に健軍町行の電車に乗って前面展望を楽しんでいると、場所は忘れましたがたびたびすれ違う上熊本・田崎橋方面行電車の中に、すでに西鉄時代の塗装に復元されていた5014号の姿がありました。
この時点でこの日5000形に乗車できないことは確定してしまいましたが、上熊本駅前停留所に到着して隣接する車庫に入庫した5014号を撮影することができればと思い、ダメもとで上熊本車庫へ行くことにしました。
当時上熊本の市電の車庫は移転してきてからまだ日の浅い頃で、上熊本駅前の停留所から歩いてすぐのところにあります。
車庫の留置線は金網の高いフェンス越しにではあるものの公道の幅の広い歩道の上から留置車両をゆっくり眺められる路面電車好きにはとてもありがたい線路配置になっていました。
朝のラッシュ時間帯が終わりかけのタイミングで留置車両はそれほど多くはありませんでしたが、そんな中に先ほどすれ違った5014号の姿がありました。
5014号は道路に近い側の線に止まっていて、他の留置車両や車庫内の施設に妨げられることなく車両全体を眺めることができました。
もちろん、ただ眺めるだけでなく5014号の写真も撮影。フェンスの金網にデジカメのレンズを入れての撮影なのでアングルには制限はあるものの、しっかりと西鉄カラーの5014号の記録を残すことができました。

今日で熊本市電での営業運転を開始してから47年、西鉄時代を含めると68年の活躍の歴史に幕を下ろした5014号。
20日から行われた特別運行には多くの人が詰めかけ、5014号の人気のほどが感じられました。
熊本市交通局では今後5014号をイベントなどで一般公開することも検討しているようで、今後の展開が注目されます。
5014号は今では貴重な西鉄の路面電車の生き残り車両の1両でもあるだけに、ぜひ何らかの形で保存されることを期待したいものです。

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