JR東日本は19日、一部のお得なきっぷを見直すことを公表しました。今回はこれについて、週末パスの廃止及びお得な商品のネット販売促進の背景について考察します。
えきねっとでのご予約でおトクな商品を期間限定で発売します! ~新幹線や在来線特急列車の50%割引及び一部のおトクなきっぷの見直しについて~
1.プレスリリースの概要
プレスリリースでは、5月12日(月)~30日(金)の期間限定で、新幹線や特急列車が最大5割引きで利用できるえきねっと限定商品の販売を行うことが謳われています。
それにあわせ、一部のお得なきっぷを廃止することも公表したのですが、廃止されるきっぷの中に「週末パス」も含まれており、嘆きの声が多くあがっています。
2.週末パスとは
週末パスは、関東・甲信越・南東北のJR線が連続する土曜・日曜の2日間乗り放題となるきっぷです。
乗車可能なエリアが広い上に、JR以外の第三セクターや一部私鉄も乗ることができ、さらには特急券を追加で購入すれば新幹線や特急にも乗車可能なので、とても使い勝手がよいきっぷです。
それでいて価格は8,880円とリーズナブルな設定になっています。フリーエリア内の鉄道を乗り倒そうとしなくても、東京~福島、東京~新潟間の往復だけでも元がとれてしまうので、鉄道マニア以外にも使いやすいきっぷです。
3.週末パス廃止の背景
そんな週末パスですが、6月29日までの土休日(ゴールデンウィーク除く)までの利用をもって廃止されることとなりました。JR東日本は、週末パスを廃止する理由として「利用状況を踏まえての判断」「販売実績が落ち込んでいた」「えきねっとのチケットレス商品の利用が中心になっている」などを挙げています。
JR東日本の見解は間違ってはいないとは思いますが、販売実績が低下しているといってもどれほど低下しているか具体的な数字は示されておらず、釈然としない部分もあります。販売実績の低下というよりは、別の狙いのために廃止すると考える方がしっくりくるように思います。廃止の理由やJRの狙いについて考えてみます。
(1)おトクすぎる
JR東日本は表立って言いませんでしたが、前述のように週末パスはかなりお得なきっぷです。フリーエリアが広範囲でありながら、東京~仙台などの都市間往復だけで元がとれてしまうおトクぶりに、企画本部から目をつけられた可能性は大いにあると思われます。
(2)ネット予約に誘導したい
JR東日本に限らず、近年はどの鉄道事業者もインターネットの会員制予約サイトからのきっぷの予約を推奨しています。JR東日本も、会員制予約サイト「えきねっと」限定のおトクな商品の販売に力を入れています。インターネット予約へ移行させることで、有人窓口の数を減らし、改札業務の省力化やきっぷの紙代や印刷代といった経費を削減したいという狙いがあるとみられます。
4.インターネット予約への移行 もう一つの狙い
鉄道事業者が、新幹線や特急列車の予約をインターネット予約へ移行させたい理由としては、前述したような人件費などの経費削減、改札業務の省力化などが一つ目的にあると思われます。しかし、これとは別の狙いもあると私は考えます。それはずばり、「JR東日本商圏への誘導」です。
新幹線や特急列車の指定席を予約する場合、紙のきっぷを買うよりも「えきねっと」で購入するほうがお得になることが多いです。また、鉄道の乗車やJR東日本グループのお店での買い物に使うことができる「JRE POINT」も付与され、さらにおトクです。さらに言えば、JR東日本グループのクレジットカード「ビューカード」を使えば、JRE POINTの付与率がより高いです。簡単に言うと、JR東日本や関連企業のモノやサービスを購入すればするほど、おトクになる仕組みというわけです。
インターネット予約は、会員制予約サイトに自分のアカウントを作り、そこで商品を購入する形になります。そのため、インターネット限定で商品を販売し、あわせてJR東日本関連のモノやサービスを多く利用している人ほどポイント還元率を上げるなどのインセンティブを設定することで、JR東日本の商圏に誘導したいという狙いがあるとみられます。
象徴的なのは、首都圏の普通・快速列車のグリーン車でしょう。IC乗車券で利用した場合、50kmまでの料金は750円、100kmまでで1,000円、100km以上は1,550円となっていますが、JRE POINTでグリーン券を引き換える場合は、距離によらず600ポイントで引き換えが可能です。ビューカードを登録し、一定の金額以上を利用した場合は400ポイント、500ポイントで引き換えることができるようになるという仕組みにもなっており、JR東日本商圏へ引き込むためにお得な制度を設定しているという最たる例といえます。
5.まとめ
いかがでしたでしょうか。今後は割安なきっぷをインターネット限定に集約し、ポイントなどのインセンティブをつけることで、有人窓口や改札業務の縮小をするだけでなく、JR東日本商圏へ利用者をより引き込むための”客寄せパンダ”として活用したいという狙いがあるようにも感じられます。
時代の流れもあり、紙のお得なきっぷが廃止されていくのは致し方ない面もあるのかもしれませんが、一つ懸念するのは若年層が鉄道をお得に利用しづらくなるということです。
インターネットで商品を購入するには、クレジットカードが必要ですが、高校生や大学生でクレジットカードを持つのは難しいという人もいるでしょう。インターネット販売の促進もいいのですが、そればかりに特化すると若年層の利用を取りこぼし、若年層が鉄道を利用したいと思うきっかけを失い、鉄道から足が遠のくことが懸念されます。若者限定で紙のお得な切符を発売するというのは、一つ有効な手立てだと考えます。
今後切符の販売がどのように変わっていくのか、引き続き注目です。