JR東日本と岩手県北自動車は17日、盛岡~宮古間の公共交通輸送について、国から共同経営の認可が得られたことを公表しました。今回はこれについて分析します。

鉄道事業者とバス事業者による岩手県県央部と沿岸部間の共同経営の認可について

 

※記事中の図は、上記プレスリリースから引用しています。

※JR山田線と106急行・106特急については、下記記事をご覧ください。

 

1.共同経営ー独占禁止法の適用除外についてー

 異なる事業者どうしがバス路線のダイヤを調整しあったり、運賃に関する協定を締結することは、独占禁止法に抵触する恐れがあり、最近までは認められていませんでした。

 しかし、地方部を中心に人口減少等が進んだ影響で、経営が成り立たなくなるバス事業者が出てくるなど、単独の事業者では生き残りが難しい、複数の事業者が競合すると共倒れになる可能性が出てきました。

 そうした状況を踏まえ、令和2年に独占禁止法の特例法が成立しました。これは、必要な要件を全て満たした場合に、事業者間でのダイヤ調整や運賃協定などを行っても独占禁止法の対象としないというものです。詳細はこちらの解説記事をご覧ください。

公共交通政策:地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律について - 国土交通省

 

 このたび、JR東日本と岩手県北自動車に対して共同経営の認可が下りたことにより、今後はJR東日本と岩手県北自動車が運行ダイヤや運賃について直接協議したり、調整のうえ決定することができるようになります。

 

 

2.概要

 期間は2025年4月1日(火)~2030年3月31日(日)の5年間です。共同経営の対象区間は盛岡~宮古間です。(並走区間にはない上盛岡駅・山岸駅・上米内駅は除く)

 

 

3.実証実験について

 共同経営を行うのに先駆け、JR東日本と岩手県北自動車は令和6年度(令和6年4月1日~令和7年3月31日)に利便性向上のための実証実験を行っています。

 その内容とは、盛岡~宮古間(上盛岡・山岸・上米内駅を除く)を有効とするJRのきっぷを持っていた場合、106バスを利用することができる、というものです。例えば、仙台駅から宮古駅までのJRのきっぷを持っている場合、盛岡駅から宮古駅までの移動については、JRのきっぷで106バスに乗れるというわけです。

 20240229_mr02.pdf

 

 昨年4月1日~1月31日までの実証実験の結果についても、このプレスリリースで公表されました。JRのきっぷを使って106バスに乗車した人は1日平均34人で、8割程度が盛岡~宮古間の利用であったことが明記されています。

 他にも、首都圏や仙台と宮古を往来する乗客も、JRの乗車券で106バスを利用した人も多かったと、岩手県北自動車はコメントしています。

 前述した仙台~宮古間の例で考えてみましょう。仙台駅から宮古駅までの料金は、全区間JRで運行した場合は「運賃5,170円+新幹線特急料金」なのに対し、仙台~盛岡間を東北新幹線、盛岡~宮古間で106バスを利用した場合は運賃5,610円+新幹線特急料金となり、バスを使うと割高になってしまいます。

 しかし、現在はJRのきっぷで106バスに乗ることができるので、盛岡~宮古間をバス利用にしても料金は「運賃5,170円+新幹線特急料金」で済みます。そのため、首都圏や仙台からの乗客も、106バスを利用した人が増えたのでしょう。

 実証実験は今年3月31日までとなっていますが、4月1日以降もこの施策は引き続き実施されます。

 

4.今後の展望

 今後はJR東日本と岩手県北自動車が運行ダイヤについて直接協議できるようになるため、JR山田線のダイヤ、106バスのダイヤそれぞれが重複しないようなダイヤが作成されることになるでしょう。

 現行のJR山田線・106バスのダイヤを下に示します。(2025年3月15日ダイヤ改正予定なのでご注意ください)

 

 106特急バスは停車する停留所がわずかであり、盛岡~宮古間でJR山田線の列車より30~40分ほど速いため、JRの列車とダイヤが重複する心配はほとんどありません。JR山田線とダイヤが重複するのは106急行のほうで、現行ダイヤをみても宮古15:45発の106急行、15:54発の普通盛岡行きと,近しい時刻に走っているところがあり、こういった部分を是正するとみられます。

 また、現行ではJRの乗車券で106バスに乗ることができますが、106バスの乗車券でJR山田線を利用することはできません。共同経営となり、JR山田線と106バスでダイヤを調整した場合、バスが走っていない時間帯に鉄道が走るというシチュエーションも考えられるため、106バスの乗車券でJR山田線に乗れるようになる可能性もあります。そのうえでの運賃収入の清算方法についても、今後確立されるとみられます。

 

5.まとめ

 JR山田線は利用者が少なく、収支率もワースト上位に位置しています。その中で、大部分で106バスと並行しており、JR単独では廃線となる可能性が十分にあります。

 また、運転手不足や利用者の減少で、鉄道やバスが出せる本数にも限りがあり、その中で鉄道やバスと競合していても共倒れになる可能性があります。

 それらを考えると、今回JR山田線と106バスが共同経営となることは、お互いのできることを最大限に生かし、盛岡~宮古間の移動手段を確保し、より利便性を向上させるという点で、非常に意義の大きい取り組みであるといえます。

 JRとバスの共同経営は、徳島県の「JR牟岐線と徳島バス」に続き、2例目となります。鉄道とバスが競合しており、バスの本数が比較的設定されているような路線は、共同経営を視野に入れたほうがより利便性が上がり、利用者減少に歯止めをかけられる可能性もあります。こうした取り組みが、もっと全国で増えていけばと思います。

 JRと岩手県北自動車の共闘により、どのような輸送体系へと進化するのか、これからも注目です。