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なぜアメリカでは国を横断する鉄道が発達しなかったのか

今回は、アメリカ合衆国で国を横断する鉄道が発達しなかった理由について、話していきます。


1. 自動車の台頭

まず第一の理由は、自動車の登場と普及です。20世紀に入ると、アメリカで自動車が急速に普及し始めました。特に1908年にヘンリー・フォードが発表したT型フォードは、大量生産によって価格を抑え、一般の人々にも手の届く乗り物となりました。

自動車には鉄道にない利点がありました。例えば、

  • ドアからドアでの移動が可能

  • 時間や経路を自由に選べる

  • 荷物の量に制限が少ない

などです。こうした利点が多くの人々の心をつかみ、自動車利用が増えていったのです。

さらに、アメリカ政府も自動車の普及を後押ししました。1920年代から各州に高速道路への投資を促し、州間を結ぶ高速道路網がアメリカ全土で構築されていきました。

このように、アメリカ政府が自動車での移動を推進したことで、アメリカ国民にとっての鉄道の相対的な重要性が低下することになったのです。

2. 航空機の発達

2つ目の理由は、航空機の発達です。1930年代に入ると、鉄道は自動車だけでなく、航空機という新たなライバルとも競争しなければならなくなりました。航空機は長距離移動において、鉄道よりもはるかに速い移動手段となったのです。

例えば、ニューヨークからロサンゼルスまでの移動を考えてみると、鉄道では数日かかるのに対して、航空機であれば乗り継ぎがあっても半日もあれば到着することができます。

このような所要時間の差は、特にビジネスパーソンにとって大きな意味を持ちました。時間が貴重な人にとっては、3日間もの移動時間は受け入れがたいものだったのです。

また、航空機は鉄道と違って、新たな線路や橋を建設する必要がありません。そのため、インフラ整備のコストが低く、新規参入も比較的容易でした。こうして、長距離移動の分野で航空機が鉄道にとって代わっていったのです。

3. アメリカの地理的特性

3つ目の理由は、アメリカの広大な国土と地理的特性です。

アメリカ合衆国は、日本の約25倍もの国土面積を持つ広大な国です。この広さは鉄道網の整備にとって大きな課題となりました。

まず、建設コストの問題があります。広大な土地を横断する鉄道を建設するには、莫大な費用がかかります。特に、ロッキー山脈のような険しい地形を越える際には、トンネルや橋の建設など、さらに多くの費用が必要になります。

次に、人口密度の問題があります。アメリカの多くの地域、特に中西部や西部は人口密度が低く、鉄道を運営するのに十分な乗客を確保するのが難しいのです。

例えば、ニューヨーク州の人口密度は1平方キロメートルあたり約150人以上ですが、ワイオミング州では1平方キロメートルあたり2~3人しかいません。このような人口の少ない地域では、採算の取れる鉄道サービスを提供するのは非常に困難です。

さらに、アメリカの気候も鉄道の運営をむずかしくしています。厳しい寒さや雪、砂嵐などの気象条件は、鉄道の定時運行を妨げる要因となります。これらの地理的特性が、国を横断する鉄道網の発達を阻害する一因となったのです。

4. 政府の政策と規制の問題

4つ目の理由は、政府の政策と規制の問題です。

アメリカでは、鉄道に対する政府の態度が時代とともに大きく変化しました。19世紀後半から20世紀初頭にかけては、政府は鉄道の建設を積極的に支援していました。大陸横断鉄道の建設促進のための政策が打ち出されたのもこの時期です。

しかし、20世紀に入ると、政府の態度は次第に変化していきます。鉄道会社の独占的地位や不公正な取引慣行に対する批判が高まり、政府は鉄道産業に対する規制を強化し始めたのです。その一方で、自動車や航空機産業に対する規制は鉄道に比べれば緩やかだったため、規制の不均衡が生じてしまいました。

5. 鉄道会社の経営戦略の失敗

5つ目の理由は、鉄道会社自身の経営戦略の失敗です。多くの鉄道会社は、自動車や航空機との競争に直面した際、適切な対応を取ることができませんでした。彼らは長年の独占的地位に安住し、新しい競争環境に適応するのが遅れてしまいました。その結果、多くの鉄道会社が財政難に陥りました。

また、顧客ニーズの変化にも十分に対応できませんでした。例えば、ビジネス旅行者向けの高速サービスや、快適性を重視した長距離列車の導入などが遅れました。さらに、それぞれの鉄道会社が相互に連携し合って路線を建設せず、規格も統一されていなかったため、効率的なネットワークを構築できませんでした。これは国を横断する鉄道サービスの提供をむずかしくする要因となりました。

まとめ

以上、アメリカ合衆国で国を横断する鉄道が発達しなかった理由について、5つの観点から見てきました。これらの要因が複雑に絡み合って、アメリカの鉄道産業は衰退していきました。

しかし、近年では環境問題への関心の高まりや、都市部での交通渋滞の深刻化などを背景に、鉄道の重要性が再認識されつつあります。一部の地域では高速鉄道計画も進められています。

今後、アメリカの鉄道がどのように発展していくのか、そしてそれが社会にどのような影響を与えていくのか、注目していく価値は十分にあるでしょう。

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