JR西日本は17日、春の臨時列車について発表し、JR奈良線に35年ぶりに臨時特急を設定することを明かしました。今回はこれについて考察します。
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1.概要
JR奈良線は、京都と奈良を結ぶ路線です。通常はみやこ路快速・快速・区間快速・普通の4種類の列車が走っており、特急列車は走っていません。そんな奈良線に、下記の通り臨時特急が設定されます。
名称 :いにしへ
走行区間:京都駅~奈良駅(途中、宇治駅のみ停車)
運転日 :4/19(土)・4/20(日)・5/17(土)・5/18(日)
座席 :全車指定席(自由席なし)
特急料金:1,290円
2.詳細分析
臨時特急「いにしへ」のダイヤは以下の通りです。(JR西日本プレスリリースから引用)
午前中に京都から奈良へ、夕方に奈良から京都へ1本ずつ運行されます。所要時間は奈良行きが55分、京都行きが49分となっています。みやこ路快速の所要時間は京都~奈良間で44分なので、お世辞にもこの臨時特急列車は速いとは言えません。3月ダイヤ改正からは全ての快速列車に座席指定サービス「うれシート」が導入されますが、「うれシート」の指定券は530円(チケットレス300円)なので、1,290円の特急料金は割高感が否めません。
次に、京都~奈良間で並行して走る近鉄と比較してみましょう。
近鉄特急 :34~37分 運賃760円+指定席特急料金520円=1,280円
JR臨時特急:49~55分 運賃720円+指定席特急料金1,290円=2,010円
ご覧の通り、近鉄が圧倒的優位に立っています。運行本数もJRは臨時1往復なのに対し、近鉄特急は毎時1~2本設定されており、「いにしへ」に勝てる余地はないといっても過言ではありません。
3.臨時列車の設定理由
それではなぜ、このタイミングで奈良線に臨時特急を設定するのでしょうか。考えられる理由をあげてみます。
(1)奈良線の複線区間増大
奈良線は長らく全線単線でしたが、国鉄からJRになってから複線化が進められてきました。2001年、2023年と段階を踏んで複線化され、現在では北側の京都~城陽間が全区間複線になりました。
京都~奈良間の約半分が伏線となり、臨時列車を入れ込むうえでのダイヤ上の制約が減ったことは、要因の一つとして挙げられます。
(2)大阪万博
大阪万博の開催は、間違いなく大きな理由でしょう。大阪万博の開催により、国内外から多くの人が近畿地方にやってきます。大阪を訪れた人に対し、ついでに京都や奈良を周遊してもらおう、その観光客を取り込もうという意図があるとみられます。
また、外国人は「JAPAN RAILWAY PASS」を使う人も多く、このパスをもっていると指定席特急券にも乗車できます。外国人観光客を特急「いにしへ」に誘導し、快速列車の混雑集中を防ぐという意図もあるのかもしれません。(さすがに1往復だけではどこまで効果があるか、というところですが…)
(3)観測気球
今後、有料特急を走らせる需要があるかどうかを見極めるための観測気球として試しに走らせるという可能性もあります。
4.まとめ
いかがでしたでしょうか。正直に申し上げると、スピード面や料金面で臨時特急「いにしへ」を使う積極的な理由に乏しいという印象を受けます。
同じ奈良発着の特急でも、大阪・新大阪~奈良間を結ぶ特急「まほろば」は、3月ダイヤ改正から土休日は毎日運転となり、万博開催中は臨時で1往復追加で運行されます。「まほろば」については、山陽新幹線沿線(岡山、広島など)~奈良間の行き来において、乗り換えが少なく快適に移動できるようになるため、利用する積極的な理由があります。だからこそ、定期化&臨時列車の設定という話になったのでしょう。
せめて「まほろば」のように、チケットレスでお得な特急券を発売するなりしないと、「いにしへ」号の利用は鉄道マニアだけ、という事態にもなりかねないと思います。
「いにしへ」号は4,5月に運行がなされます。その際、利用状況がどのようになるか注目です。