旅メモ ~旅について思うがままに考える~

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悲運の貨車~経済を支える物流に挑んだ挑戦車たち~ 発想はよかったけど貨物を「割っちゃった」無蓋車・トキ800000【1】

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 鉄道貨物輸送が華やかし頃、実に様々な物を貨車に載せて運んでいました。今では到底考えられないような物まで、貨車に乗せて運ぼうとする試みは古くからあり、中には発想こそはよかったけれど、実際に運用してみると使い物にならない、言い換えれば「失敗作」といわざるを得ない貨車もあったのです。

 今日の貨物輸送とは違って、当時は「物資別適合貨車」と呼ばれるほど、荷主が何を運ぶかによって設計され、幾多もの形式が誕生していました。そして、残念ながら量産に至ることなく消えていった車両も数多くあったのです。

 鉄道貨物輸送の全盛期、もっとも重宝されたのが有蓋車と無蓋車でした。そのうち、無蓋車は風雨にさらされても貨物の質に大きな影響を及ぼさなかったり、有蓋車では構造上載せることが困難な大型の貨物を運ぶことに多用されていました。

 無蓋車はその名の通り、屋根のない貨車です。いってみれば、トラックの荷台のような容姿の貨車で、古くは砂利を運ぶことに適したものでした。そして、中にはコイル状に巻いた鋼板や、大物車に載せるほどでもない機械部品なども運んでいました。

 そして、この構造に目をつけたのか、大型の板ガラスを無蓋車で運ぼうとしたのです。

 板ガラスを運ぶ時に、多くは専用の保持装置を備えたトラックでは運んでいます。今日でも、そうしたトラックを見かけることがありますが、トラックで運べるのならば鉄道でも運べるだろうという発想で、その貨車は開発されました。そして、この貨車が成功すれば、全国にくまなく路線網をもつ鉄道によって、板ガラスを低コストで出荷できるという目論見があったのです。

 荷主である日本板硝子で生産される板ガラスを輸送するため、国鉄は専用の装備をもたせた貨車を用意しました。第二次世界大戦後に国鉄が量産した35トン積無蓋車でるトキ15000を改造したトキ22000です。

 トキ15000は国鉄の標準的な35トン積無蓋車で、5000両以上が製造されました。全長13,500mmで木製のあおり戸をもち、TR41系列の台車を装着した当時としては標準的な構造でした。

 国鉄は荷主である日本板硝子の要望に応えるため、1968年に大型無蓋車の標準形式であるトキ15000のうち2両を、板ガラス専用の貨車に改造します。輸送する板ガラスのサイズに合わせて車体を1,400mmも延長し、中央部には板ガラスを落とし込む穴を設け、ガラスを保持するための架台も設置しました。この改造によって誕生したトキ22000は、板ガラスを立てた状態で輸送することができ、福知山鉄道管理局と千葉鉄道管理局にそれぞれ1両ずつ配置しました。

 輸送実績は良好だったようで、トキ22000は1982年に廃車されるまで、14年間運用されました。しかし、トキ22000は改造車であるため、運ぶことができる板ガラスの寸法に制限があり、より大型の板ガラスを輸送するためには、これに対応した車両が必要でした。

 

第二次世界大戦が終わるまで、国鉄の無蓋車は二軸車であるトム級が標準であったが、戦後になるとGHQの指示により35トン積のトキ級が本格的に製造された。トキ15000形はそれによる無蓋車として5000両以上が製造され、トキ25000形が製造されるまで大型無蓋車の標準形式であった。その使いやすさからか、トキ15000形を種車にした物資別に適合させた改造車も数多く作られ、大型板ガラス用としてトキ22000形が2両、後藤工場(現在のJR西日本後藤総合車両所)で製作された。また、私鉄にも同形車が作られた。写真の東武鉄道トキ1形はトキ15000形と同一設計の車両だが、後年の更新工事によって側面のあおり戸は、オリジナルの木製からプレス鋼板に替えられてトキ25000形に酷似した外観になった。但し、台車は平軸受けのTR41形を装着している。(©シャムネコ, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons)

 

 そこで、1973年に荷主である日本板硝子の私有貨車として製造されたのが、トキ80000だったのです。

 トキ80000は無蓋車ですが、大型板ガラスを輸送するためトキ22000同様に、特異な構造をもっていました。板ガラスを載せる部分には、トキ22000と同様に全長10,100mm、深さ795mmの落とし穴が設けられました。そのため、本来であれば台枠にある中梁が枕梁の間にも通して設置されますが、この落とし穴があるために枕梁の間の中梁は省略されました。しかし、これでは重量物である貨物を載せて支えることができないため、代わりに枕梁の間は魚腹形の側梁を設置することで、台枠全体の強度をもたせました。これは、落とし込み式の大物車にも似た構造で、無蓋車としてはほかに例を見ない特異な構造となったのです。

 また、大型板ガラスを載せるため、車体全体の長さも18,630mmにもなるなど、国鉄無蓋車の中で最大の長さになりました。そのうち、車端両端には長さ1,900mmのデッキが設けられ、ここにブレーキ装置を設置しました。通常、無蓋車にはデッキを設けることはありませんが、トキ80000の場合は連結器に緩衝装置を設置させる都合から、このような長さのデッキを設けたと考えられます。

 このように、非常に特異な構造とされたため、床面積は16.1㎡と広くなったことで、大型板ガラスを容易に載せることを可能にしたのです。

 

《次回へつづく》

 

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