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パリ地下鉄10号線 ミラボー駅

2024.12.22

パリ地下鉄の変な駅を紹介しよう。

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パリ地下鉄 ミラボー駅
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▲パリ地下鉄10号線、ミラボー駅のホーム。なんだかよくわからない構造をしている

フランスの首都パリの地下を縦横無尽に走るパリ地下鉄は、1900年7月に運行を開始した世界でも有数の歴史を持つ地下鉄である。2024年12月現在、16の路線で320駅1)を営業。一部の路線はパリの市域を越えて周辺の自治体まで及んでおり、パリジャンの足として親しまれている。

歴史のあるものには、その過程で生じた変なものが残っているのが世の常。パリ地下鉄で随一の変な駅と言えるのが、セーヌ川の右岸、パリ16区に位置する10号線のミラボー駅である。秋にパリを訪れた際、この駅に立ち寄ってみたので、紹介しよう。

ミラボー駅の何が変なのか、冒頭の写真を見ていただければ一目瞭然であろう。ホームが片側にしかないのである。このホームは、10号線東行き電車のホームである。反対側の、勾配のついている線路を走る西行きの電車は、この駅を通過してしまう。

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パリ地下鉄 ミラボー駅
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▲奥のトンネルから走ってきた西行きの電車。轟音とともにこの駅を通過していく
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パリ地下鉄 ミラボー駅
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▲反対側から見る。奥のトンネルのすぐ先で10号線は分岐し、西行き電車と東行き電車は互いに異なる経路を走る
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パリ地下鉄10号線 路線図

▲10号線、西側末端部の路線図。図の通り、西行きと東行きで互いに異なる経路をとる一方通行区間が存在する。右を流れるのがセーヌ川で、ミラボー駅はセーヌ川のすぐ西側にある。なお、中央下部に見えるスタジアムはパリを本拠地とするプロサッカーチーム、パリ・サンジェルマンFCのホームスタジアムであるパルク・デ・プランスで、その500mほど北にはテニスの全仏オープンが開催されるスタッド・ローラン・ギャロスがある。左上で見切れているのは、競馬で有名なロンシャン競馬場だ(筆者作成)

ミラボー駅は、1913年に8号線の駅として開業2)。当初、このミラボー駅を含む区間はループ状に運行しており、東方面からやってきた電車は、エグリーズ・ドートゥイユ駅→ポルト・ドートゥイユ駅→ミラボー駅と反時計回りに走って、東方面に戻っていた。現在の西側終点であるポン・ド・サン・クルまで延伸したのは1980〜81年にかけてのことで、ループ区間の西側に新たな線路を付け足したため、10号線は路線の一部に一方通行区間のある不自然な線形となった。

したがって、一方向にしか乗車できない駅はミラボー駅を含めて6駅あるわけだが、ミラボー駅を面白くしているのは、やはりホームの眼の前で轟音を立てながら電車が通過していく西行き線の存在だ。なぜミラボー駅はこのような構造になったのだろうか。

地図を見てみると、特にセーヌ川の左岸(地図の右側)からやってきた西行き電車は、右に左に蛇行しながら進んでいく。まっすぐ走ることができればそれに越したことはないが、セーヌ川と直交する必要や、周辺の建物の基礎を避ける必要があったため、一方通行区間(開業当初はループ区間)の分岐をミラボー駅を超えた地点にせざるを得なかったようだ。

また、10号線はセーヌ川を地下で渡河するが、この部分はトンネルを地下の比較的深いところに構築しなければならなかった。この結果、西行き電車はセーヌ川付近から地表近くにあるエグリーズ・ドートゥイユ駅まで、上り勾配が続く形となった。かくして、ミラボー駅は片側にしかないホームから上り坂を駆け上がっていく電車が見られるという、パリ地下鉄の中でも稀に見る特徴を持つ駅となったのである。

動画

【変な駅】パリ地下鉄10号線 ミラボー駅

  • 1)2つの支線を含む。
  • 2)この区間が10号線となったのは、1937年のことである。

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