JR東日本は6日、2026年3月に運賃改定を行うために国へ申請手続きを進めていることを正式に公表しました。今回はこれについて解説します。

運賃改定の申請について

 

1.運賃改定の内容

(1)「山手線内運賃」「電車特定区間」制度の廃止

 首都圏エリアは利用者が多いため、「山手線内運賃」「電車特定区間」が設定されており、そのエリア内部は割安な運賃が設定されています。しかし、この運賃改定により、「山手線内運賃」「電車特定区間」が廃止となり、「幹線」運賃に一本化されます。要は値上げです…ショボーン (バリアフリー料金は廃止)

 

(上表はJR西日本「お出かけネット」から引用)

 

(2)JR東日本エリア内の運賃を全て値上げ

 JR東日本エリア(関東・甲信越・東北地方)の運賃が、全て値上げされます。JR東日本・JR東海・JR西日本の本州3社は、現在に至るまで共通の運賃体系を用いてきましたが、運賃改定後のJR東日本の運賃体系は、JR西日本・JR東海の運賃体系とは別のものとなります。ただし、通常運賃の通学定期券の値段は据え置かれます。

 

(2-1)通算加算方式の導入

 JR他社とJR東日本の区間をまたいで移動する場合、JR東日本区間の乗車キロにあわせて加算運賃が設けられるという「通算加算方式」が導入されます。これについては、下の表をご覧ください。(JR東日本プレスリリースから引用)

 運賃改定後は、JR東日本内の運賃が他のJRの運賃よりも高くなるので、運賃基準額は通算キロで算出しつつ、JR東日本管内の距離に応じて加算運賃を取る仕組みに変更されます。

 

(2-2)東海道新幹線 東京~熱海間について

 東京~熱海間については、東海道新幹線と東海道本線(在来線)が並行して通っており、東海道新幹線はJR東海、東海道本線はJR東日本が管轄しています。運賃改定後はJR東日本のほうが運賃が高くなるため、新幹線経由か在来線経由で運賃が異なるようになります。

<例>東京~熱海

東海道新幹線経由    :1,980円(現行通り)

東海道本線(在来線)経由:2,090円

 

 また、現在は東京~熱海間を含む移動については新幹線・在来線どちらも選択できますが、運賃改定後は新幹線・在来線どちらに乗るかで運賃が異なるため、経路を指定しなければならなくなります。

 

(3)特定区間の一部廃止

 一部の区間では、運賃表によらず、区間を別途指定して運賃が定められている区間があります。これを「特定区間」と呼んでいます。

 例えば、横浜~品川間(22.0km)の運賃は、電車特定区間の表を適用して410円になりますが、実際の運賃は310円です。これは同区間が「特定区間」に指定されており、運賃が別途定められているからです。

 「特定区間」に指定されている区間は、他の私鉄との競合区間であることが多く、通常運賃よりさらに安く設定されています。しかし、今回の運賃改定により、18区間の廃止が予定されています。

 廃止の理由として、JR東日本は「他の私鉄との競合が少なく、割安な運賃を設定する必要性が薄い」「利用者が少ない」ことを挙げています。

(下表はJR東日本プレスリリースから引用)

 今回のプレスリリースでは12区間の存続と、18区間の廃止が公表されましたが、実際はこれよりももっと多く「特定区間」が設定されています。現在も改廃について申請中であったり、検討をしている区間もあるとみられ、詳細は後日公表される見込みです。

 この「特定区間」がどれほど廃止になるかが、JR東日本の運賃改定(値上げ)の影響の大きさを左右することになりそうです。

 

2.京阪神地区の運賃体系変更との比較

 JR西日本は2025年4月に、運賃体系の変更を予定しています。こちらの内容とJR東日本の運賃改定の内容を比較してみましょう。

 

 
 京阪神地区は利用者が多いため、通常より割安な運賃体系として「大阪環状線内運賃」「電車特定区間」が設定されています。大阪環状線内運賃は廃止されますが、電車特定区間は設定エリアが拡大される予定です。また、指定区間で割安な運賃を設定する「特定区間」の運賃も変更されません。「この運賃体系変更による増収は見込んでいない」とJR西日本は説明しており、純粋に運賃体系の簡素化を目的とした変更であるといえます。
 環状線部分の割安な運賃は東京・大阪いずれも廃止されますが、「電車特定区間」については京阪神は拡大、首都圏は廃止予定で、「特定区間」についても京阪神は維持、首都圏は大幅縮小と、全く逆の施策がとられる見込みとなりました。
 その理由は、京阪神が置かれている沿線環境にあるとみられます。というのも、京阪神のJRは、首都圏と比べて他の私鉄との競合が激しいからです。(阪神間は阪急・阪神、京阪間は阪急・京阪、阪和間は南海など)
 そのため、運賃を上げてしまうと、私鉄との競合において不利となる可能性があります。特に、京阪間や阪神間では、特定運賃として運賃が非常に低廉化されており、これがなければ速さで有利なJRもここまで乗客は獲得できていないでしょう。どちらかというと、「運賃を上げたくても上げづらい」というのが本音かもしれません。
 ただし、関西私鉄も運賃改定に踏み切る事業者が出てきていること、JR東日本が大々的な運賃改定を行うことで、JR西日本やJR東海が追従して運賃改定を行う可能性は十分考えられます。
 

3.利用者には厳しい値上げ

 いかがでしたでしょうか。山手線内運賃は廃止になるかと思っていましたが、電車特定区間をまるまる廃止すること、JR東日本がJR東海・JR西日本より高い運賃体系を導入するということは予想外で、正直に言って衝撃でした。

 JRは1987年の発足以来、消費税改定以外の理由で運賃を値上げしたことはありません。その中で人口減少や設備の維持費用の増大、物価高など、状況は大きく変わってしまっています。それを踏まえると、鉄道維持のためにある程度痛みを伴う運賃改定もやむを得ない、という判断に至ったと思われます。

 ただ、相当な値上げとなる感は否めません。特に首都圏エリアにとっては、割安な運賃体系だった「山手線内運賃」と「電車特定区間」が廃止になるうえに、統合される先の「幹線」運賃も値上げされるため、利用者にとってはかなり厳しい改定になります。「利用者が多い首都圏エリアは運賃を割安にする」という考え方から、「利用者が見込める首都圏エリアは、設備投資や維持費用もかかるので、その分利用者に一一定額を負担してもらう。そして運賃収入を稼ぐ」という方針に転換したといえるでしょう。

 今後、他のJRが運賃改定に追従するのか、運賃改定についてさらなる変更や廃止が起こるのか、その行く末に注目です。