2022年の2月のとある日のこと、私は旅に出るべく例によって紀伊勝浦駅の1番のりばにいました

今日はこれからキハ85系だけを乗り継いで、太平洋側にあるこの駅から日本海側の富山駅まで向かおうと計画を立てたわけです

 

キハ85系については、2023年3月17日に「ひだ」から、同年6月30日に「南紀」の運用から撤退し、7月8・9日には、高山本線で運行された「さよならキハ85系」号を最後に鉄路から勇退しました

僅かにキハ85形0番台車4両が京都丹後鉄道へ譲渡され、KTR8500形として再スタートした以外は浜松で廃車の運命を辿りました

 

本当は定期運行から引退して1年が経つ今年の春くらいにこの旅行記を投稿できればよかったのですが、他にも旅行記のストックが山のようにあって、全然消化しきれていない上に、管理人の性格故、伸び伸びになってしまい、よく分からない取り留めのないタイミングになってしまいました

 

 

何はともあれ、まずは「南紀」4号に乗って、紀伊勝浦駅から名古屋駅へ向かいます

「南紀」に関しては、これまで何度もここで紹介している関係上、そこまで書くことがないので、「ひだ」とまとめて紹介しようと思います

 

なお、この日ホームで撮った写真が他になかったので、別日に撮った写真を引っ張ってきたのですが、やはり平成初期生まれの人間としては、この283系とキハ85系が並んでいる姿に安心感を覚えます

未だに287系の「くろしお」に馴染めないあたり、こうして老害鉄ヲタになっていくのでしょう(笑)

 

 

そんなことはさておき、この日はコロナ禍真っ只中とはいえ、三連休の初日だったこともあり、所定の2両に加え、紀伊勝浦方にキハ84-0+キハ85-1100の2両を増結した4両編成での運行でした

いわゆる変態連結と呼ばれる組成ですが、こういう時はHC85系ではバッサリと省略されてしまったヘッドマークをまじまじと観察することができます

 

このヘッドマークのモチーフになっているのは、那智勝浦町内にある落差日本一の133mを誇る那智の滝で、紀伊勝浦駅からは連絡バスが運行されています

キハ80系時代はライトグリーンを基調にしたデザインでしたが、キハ85系では水色を基調にしたデザインへ変更されました

 

 

 

キハ85系の名物?とも言えるのが、後年の交通バリアフリー法の施行に伴って、半ば無理くり改造された車イス対応トイレです

 

従来あった和式トイレと洗面所を取っ払って、開口部の広い押釦式の自動ドアを設けた洋式トイレを新設し、さらに座席1列分を撤去して、洗面所が設置されました

 

キハ187系のように、洗面所をあっさり省略してしまうケースもある中で、きちんと優等列車らしく洗面所を残すあたり、JR東海の生真面目さの現れといえます

 

 

キハ85系最大の特徴といえば、何と言っても客室からの圧倒的に優れた眺望性で、座席部分がセミハイデッキ構造になっていることもあって、国内の鉄道車両では他を圧倒しています

もうまもなく名古屋駅に着こうかというタイミングでDF200の牽引する貨物列車と近鉄名古屋線を走る「ひのとり」と離合しました

 

 

定刻通り12時41分に、「南紀」4号は名古屋駅に到着しました

 

 

隣の11番のりばに停車しているのは、「ひだ」11号富山行きで、10号車のグリーン車にはキロ85形のトップナンバーが連結されていました

 

富山へ行くのであれば、このまま「ひだ」11号に乗り換えてもよかったのですが、「南紀」4号からだと乗り換え時間が7分しかなく、少しでも遅れたら旅程が崩壊してしまうので、余裕を持たせて次の「ひだ」13号のきっぷを確保しています

 

セントラルタワーでまったり昼食をとってから、名古屋駅へ戻ってきました

 

 

実は、この時名古屋駅に停車中の「ひだ」13号の写真を取り損ねており、これまた2021年のGWの時に撮影していた「ひだ」11号の写真で代用しています

 

 

全国のキハ85系愛好家の諸兄であれば常識かもしれませんが、キハ85系は製造年によって3種類のバリエーションがあります

①量産先行車 1988年製造

②ひだ用(一次車) 1990年製造

③南紀用(二次車) 1992年製造

 

当初は①②が「ひだ」専用、③が「南紀」専用とはっきり運用が分けられていましたが、2001年3月のダイヤ改正以降は三者が混在して運用に就くようになりました

そして、③の存在をもっとも特徴付けていたのがパノラマ型グリーン車であるキロ85形の存在です

 

「ひだ」用である①②のグリーン車が半室構造で横4列座席だったのに対して、③では横3列座席の全室構造へ進化を遂げました

しかし、「南紀」の走行区間である三重県南部~和歌山県南部は人口の希薄なエリアを走行するため、全室構造のキロ85形では供給過剰だったことは否めず、先述したダイヤ改正時に「ひだ」へとコンバートされてしまいました

 

キロ85形が「南紀」の運用に入っていた頃、管理人はようやく中学生に上がろうかというタイミングで、無論グリーン車で移動することが選択肢にさえ入らない年頃です

そんなこんなで、これまでキハ85系の4種類ある座席の中でキロ85形だけ座ったことがなかったので、今回は名古屋→富山間を贅沢にグリーン車で移動します

 

 

相変わらず写真が別日に撮影した「ひだ」11号ですが、車両は同じキロ85形ですので、ご勘弁ください

 

 

スポットライトに照らされたクローバーマークが誇らしげです

 

この日の「ひだ」13号には、キロ85-3が連結されていました

キロ85形は全部で5両が製造されており、「ひだ」の中でも走行距離の長い富山駅を発着する4往復に連結されていました

 

HC85系に置き換えられたいまとなっては、グリーン車が高山回転の編成にしか連結されておらず、名古屋~富山間をグリーン車で移動することさえできなくなりました

それだけ高山以北のグリーン車に対する需要が無かったのかもしれませんし、北陸新幹線が敦賀まで開業したので、名古屋から富山まで乗り通すような物好きはそうそういまいと判断されたのでしょう

 

 

 

キロ85形は名古屋駅基準で上り方(東京寄り)の10号車に連結されており、名古屋→岐阜間は最後尾となりますが、岐阜から高山本線に入ると前面展望を楽しむことができます

なお、同区間を「ひだ」は20分弱で走り抜けることから、名古屋出発時点で座席は逆向きにセッティングされています

 

 

後継車両であるHC85系の量産先行車の試運転もスタートし、おそらく「ひだ」のグリーン車に乗車する機会もそれほど多く残されていないだろうと思い、かぶりつき席となる10号車1番C席を確保しました

動画を撮るのに必死で、意外と目ぼしい写真が残っていませんが、離合するキハ85系はきちんと記録に残っており、白川口~下油井駅間にある鷲原信号上で「ひだ」14号と離合しました

 

 

 

飛騨金山駅から下呂駅にかけては、中山七里と呼ばれる飛騨川の渓谷美が手に取るように望めます

HC85系は、側窓こそキハ85系と同じ1,000㎜が確保されていますが、残念なことに前面展望はバッサリと切り捨てられました

 

観光色の強い列車とはいえ、もはや前面展望というサービスは不要と判断されたのでしょう

それでもキハ85系に乗り慣れた身からすれば、HC85系の”目の前が壁”な車内に閉塞感を覚えます

 

 

下呂駅の手前にある少ヶ野信号場では、多層建て列車として名を馳せる?「ひだ」16・36号と離合し、信号場の数と多数運行される特急列車に単線非電化区間でありながら高山本線の需要の旺盛さが窺えます

 

下呂に到着したところで、10号車のグリーン車からは6~7割の乗客が下車しました

週末を優雅に下呂の温泉街で過ごすリッチな方々によって、この列車のグリーン車の利用が下支えされていることが垣間見えます

 

実は、名古屋駅から私の横の1番AB席にひたすら喋り続ける熟年夫婦が座っており、岐阜を過ぎてアルコールが進むと、もはや騒音を通り越して公害レベルの騒々しさとなり、口を縛り付けたい衝動に駆られていたのですが、なんとか下呂で降りてくれて助かりました

繁忙期の「のぞみ」の自由席でさえ、こんな程度の低い乗客と遭遇したことはないのですが…私の運が悪かったのですね

 

 

下呂を過ぎたあたりから、辺り一面銀世界となり、渚駅で「ひだ」82号と離合しました

それにしても、いま思えばキハ85系の車内からすれ違うキハ85系を眺めるのは眼福でしたね

 

 

当列車の高山駅到着は17時14分で、徐々に日が傾いてきました

惜しむべくは、乗車したのが日の短い2月で、富山着が19時前となるので、飛騨古川以北の前面展望をほとんど楽しめなかったことです

 

 

驚いたことに、高山駅に到着すると私以外の乗客が全員降りてしまいました

コロナ禍真っ只中だったとはいえ、これほど利用が低調ならば、富山ひだからグリーン車が外されても仕方ないのかもしれません

 

JR側からすれば好ましい状況ではないありませんが、せっかくグリーン車が貸切になったので、終点富山まで残された時間で至高の空間を味わうことにします

騒がしい連中に下呂までの道中を邪魔されましたので、バランスが取れて?ちょうどいいかもしれません

 

 

車内が貸切になったところで、キロ85形の客室内を観察してみましょう

 

客室内には、迫力のある大型の座席が3アブレスト配置で並ぶ贅を凝らした空間が広がります

登場時の時代背景がそうさせたのか、JR東海の在来線特急車両のグリーン車では、初にして唯一の3アブレスト配置です

 

室内灯の形状は照明カバーも含めて普通車とまったく同様のパーツで、「グリーン車なので間接照明やスポットライトでアッパークラスらしい空間を演出する」ような凝ったライティングではありません

そこには、座席単体で勝負する潔さがあります

 

 

本州以南を走る気動車特急でグリーン車が連結されているのは、観光列車を除くと「ひだ」「スーパーはくと」「南風」「あしずり」の4つしかありません(24年12月現在)

後継車両であるHC85系のグリーン車はクモロ85形になってしまったので、全室構造の”キロ”となると、いま乗車しているこの車両が唯一無二の存在です

 

 

座席はコイト電工製で、2列側はCR41、1列側はCR40と付番されています

全部で5両しか製造されていないキロ85形ですが、シートモケットは写真のようなブルーパープル系とブルーグレー系の2種類がありました

 

 

最近の車両では、リサイクル性を考慮しているのか、モケットやクッションの硬い座席が多いですが、この座席はさすが平成初期の作品なだけあって、ふかふかした掛け心地が印象的です

座席のサイズは、4アブレスト配置となるキロハ84形のCR37形と比べると、当たり前ですがこちらの方に軍配が上がります

 

しかし、意外なことにバックレストの追従性が見た目に反してイマイチで、特にリクライニング時は背中への食いつきの悪さが目立ちます

実際にこの座席に座ってみると、キロハ84形のCR37形や2次車のCR64形座席の方が自然と体に馴染む感覚を味わえます

 

 

付帯設備としては、フットレストに背面テーブル、インアームテーブルが備わっています

 

 

リクライニングを目一杯倒すと、まるで寝ているような感覚になりますが、ここに一番の欠点が潜んでいます

それは、リクライニングを目一杯倒すと、フットレストに足が届かないのです

 

というのも、グリーン席の標準的なシートピッチは1,160㎜ですが、なんとこの車両ではそれを大きく上回る1,250㎜に設定されています

これを凌駕できるのは、シートピッチ1,300㎜を確保しているグランクラスや「ひのとり」のプレミアムシート、それにいまは引退してしまった「スーパービュー踊り子」のグリーン車ぐらいなものです

 

それらの車両では体格に合わせて寛げるようにレッグレストが装備されていますが、こちらの座席はフットレストだけしかなく、身長170cm台半ばの管理人でさえ、足がきちんと届きませんでした

 

 

 

フットレストは土足面/素足面を反転させる跳ね上げ式で、使い勝手は悪いですが、グリーン席として不足はありません

それにしても、このフットレストの形状が遠く離れたJR北海道のキロ280形の装備しているフットレストとそっくりなんですよね(※改座更新前のもの)

 

 

この車両が登場したのは1992年のことであり、昨今の車両のように座席のどこを見渡してもコンセントのように気の利いた装備はありません

その代わり、アームレストにはちゃっかり灰皿が残っており、列車内での喫煙にまだ世の中が寛容だった頃の世相をいまに伝えています

 

 

アームレストにはなにやらプラスチックでフタをされた跡が残っていますが、ここにはオーディオサービスの操作パネルが埋め込まれていました

多くの新幹線を始めとして、651系や783系、それに681系など、この当時のグリーン車で時代の先端をいくサービスがオーディオパネルであり、こちらも90年代らしいグリーン車の装備といえます

 

 

先述したように、座席以外のアコモは普通車とほぼ共通ですが、数少ない相違点として、網棚に読書灯が設けられていることが挙げられます

いったん座席から立たないとON/OFFができない構造も時代を感じさせます

 

 

キロハ84形のグリーン室部分もそうですが、こちらのキロ85形でもレースのカーテンの遮光性もしっかりした?カーテンの二種類が用意されています

ここ最近、優等列車であってもロールカーテンで済ませてしまう車両が多いなか、まるで応接室にいるような気分にさせてくれます

 

 

夜間走行時でもカーテンを閉める時は少ないのですが、この日は降雪もあったせいか、運転席側のカーテンが閉じられていました

眺望性抜群の客室が懐かしいですね

 

 

続いて、デッキ周辺を軽くご紹介します

キロ85形の車端部には、洋式便所,男子小便所,洗面所,車販準備室がありました

 

 

 

登場から30年が経っていますが、洗面所は古臭さを感じさせないデザインで、白熱色の飾り照明が暖かい雰囲気を醸し出します

 

 

 

グリーン車らしくキロ85形の便所は、デビュー当時から洋式で、オムツ交換台もあります

2次車だけで「南紀」を編成を組んでいた時は、キロ85形の次位に車イスでの利用を考慮して乗降ドア幅を750㎜から1,000㎜に広げたキハ84形300番台車を連結していました

 

その車両とペアを組むことで、一応この便所も車イス対応ということになっているのですが、面積が狭い上にドアは手動であり、本格的にバリアフリーに対応するのはキハ85形1100・1200番台車が登場するまで待たねばなりませんでした

 

 

グリーン車のオーディオサービスと並んで、平成初期の特急列車で”イケてる”サービスといえば、カード式公衆電話でした

利用可能エリアを示す路線図が掲示されていたであろう枠だけが空虚な空間を表現しています

 

 

名古屋から約4時間の旅を終えて、「ひだ」11号は終点の富山駅に到着しました

 

 

JR東海のメンテナンス技術の高さの賜物なのか、翌年に引退する運命が待っているとは思えないくらい車体が光輝いています

 

 

高山以北は3両編成で運行される富山ひだですが、グリーン車/普通車指定席/普通車自由席が各1両ずつという編成も珍しいですよね

 

 

2015年2月以来、7年ぶりに降り立った富山駅は様変わりしていました

まずホームは地上から高架へ上がり、在来線ホームは2面5線とずいぶんスリムになりました

 

2番のりばはJR西日本の管轄する高山本線の専用ホームですが、駅名標はあいの風とやま鉄道仕様となっており、もはや”JR在来線の富山駅”は存在しないのだと思った次第

 

 

 

しばらくホームをうろうろしていると、なんとも懐かしい新北陸色を纏った413系がやって来ました

観光列車に改造された車両を除くと、23年6月までに全車が引退したそうで、この時お腹が空いていなかったら、飛び乗って金沢あたりまで行っていたのですが…

 

やっぱりアラフォー鉄にとっては、北陸本線といえばこの塗装ですよね

新北陸色を眺めていると、食パン電車の幻影も見え隠れします

 

 

で、19時を過ぎてお腹も空いたので、駅前にあった廻転とやま鮨さんへお邪魔しました

ホタルイカの沖漬けの軍艦巻きが美味しいのなんの

 

 

冬の北陸といえば、のどぐろの炙りも欠かせません

 

 

富山名物の白エビの天ぷらも頂いて大変満足でした

 

明日は富山ライトレールを使って富山市内を観光したいと思います

最後までご覧下さりありがとうございました