東海道・山陽新幹線の最速達列車「のぞみ」の自由席が、来年3月のダイヤ改正の際に現行の3両から2両へ削減される見通しであることが報じられました。今回はこれについて考察します。
新幹線「のぞみ」自由席削減へ 来年春から、JR東海・西日本(時事通信) - Yahoo!ニュース
1.変更内容
現在の「のぞみ」は、1号車~3号車が自由席、4~16号車が指定席(グリーン車3両を含む)となっています。ダイヤ改正以降は3号車が指定席に変更となり、1,2号車が自由席となります。
JR東海もJR西日本からの公式プレスリリースはありませんが、複数機関からの報道があること、ダイヤ改正の発表が来月に迫っていることを踏まえると、報道の通り自由席は削減されるものとみられます。
2.自由席から指定席へ変更する理由
(1)ネット予約 チケットレス販売の推進
自由席から指定席へ変更する理由の1つが、ネット予約の推進にあると思われます。ネット予約を推進することで、窓口業務や検札業務を削減し、現場の負担軽減や費用の削減を図りたいという意図があります。
しかし、自由席特急券の場合、窓口や券売機で紙の特急券を購入することになるうえ、車内検札も必要となってしまうため、ネット予約の推進と相性が悪いです。
(2)ネット予約の普及
JR東海の会員制予約サイト「エクスプレス予約」は、スマートEXの会員数も含めると1,000万人に達しており、多くの人がネットから予約して新幹線に乗車している状況にあります。
エクスプレス予約では、通常料金より安い価格で指定席特急券を購入することができます。これだけの会員数を擁する状況においては、提供できる指定席の数を増やす必要がある、という一面はあるでしょう。
(3)着席需要の高まり
近年では、確実に座ることができて、快適な環境で移動したいという需要が高まっています。指定席車両の増加にはそうした側面も確実にあると思います。
3.自由席を残した理由
今回の変更では、「のぞみ」の自由席は全廃されることはなく、2両残ることとなりました。この理由についても考えてみます。
(1)1年ほど様子見
現在3両設定されている「のぞみ」がいきなり廃止されるとなると、混乱が生じる恐れがあります。そのため、まずは1両を指定席化して、利用動向を観察し、全廃するかどうかを判断しようとしているのではないか、という見方ができます。
(2)通勤利用者や短距離利用者への配慮
東海道新幹線(東京~新大阪)の「のぞみ」は、途中停車駅が品川・新横浜・名古屋・京都のみとなっており、首都圏~中京圏~京阪神エリア間の利用に特化しています。特に、新横浜~名古屋間は300km以上、約1時間20分もノンストップで走り続けることもあり、長時間の利用が比較的多いです。
一方、山陽新幹線(新大阪~博多)では、東海道新幹線区間と比べると利用者や本数は多くありません。そのためか停車駅が比較的多く、岡山~広島、新山口~博多、小倉~博多など、200km未満の短距離・中距離的な移動需要も「のぞみ」が担っています。乗車時間が20~30分程度の利用者も多く、わざわざ指定席をとらずに、自由席で移動するという需要が一定数あるとみられます。
また、新幹線定期券は自由席にしか乗ることができないため、通勤通学利用者に配慮したという点もあるとみられます。
4.「のぞみ」全車指定席への布石か?
「のぞみ」号は通常期は自由席が3両設定されていますが、2023年ー2024年の年末年始以降は、GW・お盆・年末年始の期間は全車指定席として運行されるようになりました。今回は最繁忙期にとどまらず、通常期においても自由席車両が減り、指定席車両が増えることとなりました。
最繁忙期の全車指定席化と、今回の自由席削減を受け、「のぞみ号の自由席はいずれ全廃されるのではないか」という見方が強まっています。全車指定席化に対して、「新幹線を利用する上での最低価格が上がってしまう」「好きな時に気軽に新幹線に乗れなくなる」「通勤利用者や山陽新幹線内での短距離利用を捌くことができるのか」など、全車指定席化に懸念を示す声も出てきています。
エクスプレス予約では、通常料金よりも安く指定席特急券が発売されている他、早特などの割引商品も販売されています。また、発車4分前まで予約可能、予約は無手数料で何度も変更可能とするなど、急な予定変更にも柔軟に対応できる仕様になっており、価格や利用の柔軟さについてはエクスプレス予約の利用でカバーできると思います。
「のぞみ」全車指定席化するうえで問題となるのは、通勤通学利用者への対応と、主に山陽新幹線で見られる短距離利用者へのカバーだと思います。
かつて「のぞみ」は全車指定席でしたが、その当時は「のぞみ」は毎時1~2本程度の運転で、「ひかり」が主体のダイヤでした。また、今よりも停車駅が少なく、長距離需要により特化した列車でした。なので、「かつては「のぞみ」が全車指定席だったから、全車指定席に戻しても問題ない」とは一概に言えないと思います。
5.「のぞみ」自由席は全廃となるのか? ~当局の予想~
当局では、条件付きで「のぞみ」が通年全車指定席化されると考えており、その体系として以下のパターンを想定しています。
〇「のぞみ」全車指定席化+特定特急料金制度の新設
「のぞみ」を全区間通年で全車指定席としながらも、山陽新幹線内に限って「特定特急料金制度」を新設するというものです。特定特急券は、「座席の指定ができない代わりに、指定席の空いている席を利用することができる」というものです。価格は現行の自由席と同程度になるでしょう。こうすることで、指定席の供給を増やしつつ、通勤通学客や短距離利用客の利便性が低下しないようにします。
同様の仕組みは、東北新幹線の盛岡以北や秋田新幹線、北海道新幹線で導入されており、この仕組みを踏襲するというわけです。
他に考えられるパターンとしては、ラッシュ時に区間限定で特定特急券を発売する、などがあげられます。
6.まとめ
いかがでしたでしょうか。「のぞみ」号の自由席をめぐる動きは、昨年末から活発に動きが出てきています。自由席廃止に反発の声も上がる一方、指定席の増大や全車指定席化を求める声も少なくなく、落としどころを決めるのが難しい案件であると感じます。
自由席から指定席への変更で、利用にどのような変化が生じるのか、今後「のぞみ」自由席はさらに縮小、廃止されるのか。今後の動きにも注目です。