JR東日本は10月29日、平均通過人員(輸送密度)が2,000未満の路線について、収支を公表しました。今回はこれについて分析します。

ご利用の少ない線区の経営情報(2023年度分)の開示について.

 

 

 同じ路線でも、区間によって利用状況が大きく異なる路線もあるため、そうした路線は何区間に分けて収支が公表されています。

 前回までは2019年度に輸送密度が2,000未満であった35路線66区間が対象となっていましたが、今回は2023年度に輸送密度が2,000未満だった路線がリストアップされているため、リストに載っている区間が6区間増えています。

 新たにリストに掲載されたのは、羽越本線(酒田~鶴岡、羽後本荘~秋田)・常磐線(いわき~原ノ町)・只見線(会津川口~只見)・磐越東線(小野新町~郡山)の6区間です。只見線の会津川口~只見間は2022年に復旧したため、今回からリストアップされています。その他の5区間は2019年には輸送密度2,000以上だった区間です。

 ここでは、「収支率・営業係数」「損益」「輸送密度」の3側面から検証し、最後にそれら3つの順位を足し合わせた「総合順位」を出して分析したいと思います。

 

(1)収支率・営業係数

 公表された72区間の収支率をワースト順にランキングにすると、以下の通りとなります。

   

 東京近郊に位置する久留里線の久留里~上総亀山間が、依然としてワーストトップとなっています。このほかにも、花輪線・陸羽東線・磐越西線・飯山線などの数値が極端に悪く、収支率1%以下の区間も6区間あります。

 2020年と比較すると数値は回復しているものの、大半の区間は2019年の数値まで回復していません。コロナ禍のダメージはそれほど大きかったということを表しているといえます。

 

(2)損益

 次に、各区間の損益についてランキングにしてみます。


 

 目立つのは奥羽本線・羽越本線の赤字額の大きさです。ワースト10のうち6つが羽越本線・奥羽本線となっていて、今回初めてリストアップされた羽越本線の鶴岡~酒田間、羽後本荘~秋田間も含まれています。   

 また、初めてリストアップされた常磐線のいわき~原ノ町間はワースト3位となりました。大都市から一番離れているエリアなうえ、福島第一原発の事故の影響も大きく残っているのも要因でしょう。その他、五能線もワースト上位にランクインされていますが、これは2023年7月の豪雨による被災が関係しているとみられます。

 一つ注意したいのは、収支率の低さと赤字額の大きさは必ずしも比例していないという点です。利用が極端に少ない路線は、本数も少なく、設備投資や営業投資も最低限にしているため、損失額でみるとワースト下位に位置していたりします。

 一方、損益額でワースト上位に入る路線は、奥羽本線や羽越本線、常磐線など、広域輸送を担い、特急列車や貨物列車が走るような区間が多いのが特徴です。これらの路線は運行本数を極端に削るということはできず、特急列車や貨物列車を走らせるための設備投資や維持費用がかかり、赤字額が大きくなる傾向にあります。

 鉄道事業者としては、赤字額が大きい路線を何とかしたいでしょうが、前述の通り広域輸送、貨物輸送などを担っていたりするので、おいそれと廃止するわけにもいきません。「利用者が極端に少なく、収支率が極端に悪い路線」と、「一定の利用はあれど、赤字額が大きい路線」は、とるべき対策は異なってくるので、そこは路線ごとに見極めて対応する必要があると思います。

 なお、このランク付けの仕方だと、距離が長い区間が不利になる傾向が出るので、参考程度にご覧いただければ幸いです。

 

(3)輸送密度

 最後に、輸送密度をみてみましょう。

 

 輸送密度とは、1kmあたりで何人乗車しているかを示す指標です。「平均通過人員」といわれることもあります。

 国交省有識者検討会では、「輸送密度1,000未満かつピーク時1時間あたり500人未満」を一つの目安として、鉄道事業者または自治体の要請を受け、新たな協議の場(特定線区再構築協議会)を設置し、存廃について協議することを提言しています。

 輸送密度1,000未満の区間は、72区間中52区間にも上っており、既に存廃について議論が進められているところもあります。

 こちらも、2020年よりはいくらか回復しているものの、2019年ほどには回復しておらず、厳しい状況が続いています。

 

(4)総合

 最後に、「営業係数」「損益額」「輸送密度」のワースト順位をまとめた一覧表を示します。3つの順位の合計も示しており、その合計値のワーストランキングを示しています。

 

 営業係数が高い・輸送密度の少ない区間が、比較的上位に占めていることがわかります。一方で、損益額のワーストは営業係数や輸送密度に比例していないこともうかがえます。

 

<まとめ>

 いかがでしたでしょうか。総じてみると、

 

〇2020年よりは回復傾向にあるが、2019年と比較すると数値は回復していない

〇各ワーストランキングに若干順位の変動はあるが、2019・2020年と大きな変化はない

 

という傾向があります。コロナ禍を抜け出して回復の兆しはあるものの、厳しい状況には変わりない、というところでしょうか。

 近年は災害の激甚化により、復旧に時間や費用が多くかかるケースがあります。また、ここでリストアップされた中で、津軽線のように災害復旧を断念して廃線が確定したところや、米坂線や陸羽西線・陸羽東線のように災害復旧が見通せておらず、廃線の危機を迎えているところもあります。

 利用者が少ない鉄道路線をどうしていくのか、存続にしろ、廃止にしろ、いかに地域住民が利用しやすい交通を作るのか。今回の収支公表は、そのことを考えるための材料となるので、このデータをよく咀嚼して、方策を考えることが今後求められます。

 もはや住民、事業者、自治体で不毛な争いをしている猶予はありません。こうしたデータを活用し、本気で膝をついて話し合い、持続可能な交通づくりに地道に取り組むほかないのです。