最近、私鉄や第三セクター鉄道だけでなくJRでも相次いで様々な形で再び運転されるようになっている夜行列車ですが、今度はJR九州が10月12日から13日にかけて「普通列車夜行の旅」というツアーの団体臨時列車として日豊本線宮崎発小倉行の夜行列車を運転すると発表しました。
この団体専用の夜行列車に使用されるのはJR九州でも残りわずかとなった国鉄型電車の一つである713系。交流電化区間の普通列車の電車化のため1983年に登場したものの、試作車の900番台が登場しただけで製造が打ち切られてしまった悲運の形式でもあります。
この713系は通常、日豊本線の主に延岡以南の宮崎県内区間を中心に運用されているので、延岡以北へ乗り入れるのはかなりレアなケースといえます。
現在の713系の座席は特急並みの回転リクライニングシートに変更され、内外装も大きくリニューアルされているので昭和時代の夜行普通列車とはイメージが異なる部分もありますが、国鉄型電車で夜行列車を体験できる貴重なチャンスであることは間違いなく、この列車もおそらくあっという間に満席になるんでしょうね。
ところで、日豊本線をかつて走った夜行列車と言えば、どうしてもブルートレインの「富士」や「彗星」のイメージが強いですが、結果的にこれらの列車よりもわずかながら長生きし、(現時点では)最後まで残った九州の夜行列車の一つでもあるのが、特急型電車による夜行特急「ドリームにちりん」でした。
この「ドリームにちりん」は、1993年3月のダイヤ改正で登場した、博多ー宮崎空港間を鹿児島本線・日豊本線経由(小倉・大分経由)で結ぶ夜行の特急列車で、同ダイヤ改正まで同じルートで博多ー西鹿児島(現在の鹿児島中央)間を結んで走っていた夜行急行(宮崎ー西鹿児島間は普通列車)の「日南」号を特急に格上げする形で誕生しました。
その後は使用車両が787系から783系に変更されるといった変化はあったものの、2011年3月のダイヤ改正で同じく九州最後の夜行列車となっていた鹿児島本線熊本経由の「ドリームつばめ」とともに廃止されるまで運転がつ続きました。
そんな「ドリームにちりん」に私は一度だけですが乗車経験があります。
今回はその時の思い出を書きたいと思います。
私が乗車したのは、確か2003年の夏のことでした。
この時は、会社の夏休みを利用しての九州への鉄道旅に出かけており、その3日目の夜に博多・小倉を出る下り列車に乗車しました。
その日の日中は、前夜の宿泊地の鹿児島から特急「きりしま」で宮崎まで出た後、宮崎空港線と日南線のそれぞれ終点までの乗りつぶしを楽しみました。
その翌日は、当時延岡ー高千穂間を結んでいた第三セクター鉄道高千穂鉄道に乗車した後、日豊本線で大分まで出て豊肥本線へ乗り継ぎ、熊本まで向かう予定にしていました。
ただ、このルートでの乗り継ぎ時刻を調べたところ、各線の接続が上手くいく組み合わせがなかなかなく、結局延岡を朝6時過ぎに出る高千穂鉄道の高千穂行始発列車に乗るのがベストであることがわかりました。
そのため、日南線などを乗り鉄した日は延岡駅前のビジネスホテルに泊まることも考えましたが、万が一寝坊して始発を逃すリスクも考え、「ドリームにちりん」で車中泊しながら延岡へ向かうことにしました。
この鉄道旅では、当時発売されていた周遊きっぷ「九州ゾーン」を利用していたので、九州内の在来線特急の自由席を特急券なしで利用でき、宿泊代を節約できるメリットも考えての選択でした。
志布志駅から日南線で到着した南宮崎駅で485系の特急「にちりん」で23時過ぎに小倉駅に到着。
夜遅くでもまだまだそれなりに活気のあるホームで博多からやってくる「ドリームにちりん」を待ちます。
23:45頃に定刻通り783系の「ドリームにちりん」が到着。途中駅からの自由席乗車でしかも小倉駅から乗車する人も結構いので座席が確保できるか不安でしたが無事席を確保。そして23:50頃に進行方向を逆にして小倉駅を発車しました。
発車してもしばらくは主要駅にこまめに停車していき、スピードも「ソニック」ほどではないにしろそこそこの速度で走ります。
実はこの「ドリームにちりん」は、博多や小倉と日豊本線沿線の主要駅との間の深夜の移動手段というだけでなく、博多ー大分間や宮崎県内の特急列車の最終列車・始発列車としての側面も持ち合わせていて、さらに小倉では新幹線「のぞみ」の下りの最終・幟の始発に接続することで本州への足にもなっていました。
暗くてほぼ何も見えない窓の外を眺めながらぼ~っと座っているうちに、1時半頃にまだ地上駅だった大分駅に到着。
ここで下り「ドリームにちりん」は何と約2時間も停車していました。
これは何かの理由で先へ進めず運転見合わせとなったわけではなく、初めからダイヤ上設定された長時間停車でした。
その理由はもともと運転距離が短めなことと、上記にも記したような「ドリームにちりん」のダイヤっ設定との関係で、博多ー大分間と宮崎県内で利用しやすいダイヤにするための時間調整のためでした。
それほど眠気もなく、2時間も動かない列車内でじっとしているのもつまらないので、ホームに出てなかなか味わえない深夜の駅の雰囲気を味わうことにしました。大分駅で下車する人もそれなりにいたようですが、私と同じように長い停車時間を列車の外に出てつぶすといった感じの人も多かったようでした。
ホームをぶらぶら歩いたり、ホーム上にあるホットスナックの自販機でアメリカンドックを買って食べたりしてもまだまだ時間があるので、フリーエリア内は途中下車し放題の周遊きっぷの利点を生かして改札の外へ。深夜2時というのに営業していてお客さんも数人いる駅構内のコンビニで朝食用の菓子パンなど買ったり、駅前をぶらぶら歩いたりしてここでも時間をつぶしました。
しばらく外をぶらぶらして再び改札を入った頃には、博多へ向かう幟の「ドリームにちりん」もホームに停車していました。上りも下りほどではないものの大分駅では約1時間の停車時間があり、深夜にもかかわらず駅のコンビニが営業しているのも納得というところでした。
列車に戻り、荷物に留守番をさせていた座席に再びつくと、さすがに少し眠気が出て、定刻通りだったと思われる大分駅発車には気づきませんでした。
下車予定の延岡の1つ前の停車駅佐伯を出てしばらく走ったあたりで目が覚めました。延岡到着まではまだ40分ちょっとあったと思いますが、ここでまた眠ってしまって延岡でおり損ねてしまっては意味がないので、ここから延岡到着まではデッキに立って過ごしました。
そして5:20頃?に延岡駅に到着し、無事下車しました。そして予定通り高千穂鉄道の始発列車に乗って終点の高千穂駅を目指しましたが、やはり夜行列車であまり眠れなかったのと当日が雨だったせいもあり、車内ではかなりの部分でつい居眠りが出てしまい、せっかく乗りに来たにもかかわらずあまり高千穂駅までの往復の車窓を味わうことができませんでした。
次回九州を訪れた時にはぜひ晴れた日の昼間の列車でリベンジを、と思っていた矢先の2005年、高千穂鉄道は台風被害に遭い、その復旧も叶わずに廃止となってしまいました。
そう考えると、最初で最後の乗車になった「ドリームにちりん」に乗れたことをよかったと思うか、それともおとなしく延岡に泊まるべきだったのか、結果論とは言え悩ましいところです。
いずれにしても、今はもう「ドリームにちりん」も高千穂鉄道も過去の存在となってしまったのは寂しいところです。
福岡・博多や北九州と宮崎県内との間を行き来する時、陸路だと鉄道でもバスでも時間がかかるというイメージがあり(もっとも、宮崎市内や都城当たりなら九州新幹線と特急「きりしま」または高速バスを乗り継ぐと速いと言われてしまいそうですが)、現実にはこの間を飛行機で移動する人も多いようです。
そのような状況では、仮に夜行列車を本格的に復活しようという流れができても、日豊本線に関しては夜行列車を再び運転するだけの夜間移動の需要がどこまであるのか疑問があります。
ただ今回の団体臨時列車のようなイベント性の強い列車や、夏休みや年末年始、GW限定で九州内を周遊するインバウンドや若年層の観光客向けの夜間移動の手段兼宿泊地の選択肢の拡大という目的で運転するのだとしたら、もしかするとそれなりの存在価値も出てくるかもしれません。
(ちなみに、2022年秋には引退が近づいていた415系セミクロスシート車を使用して「ドリームにちりん」の前身である急行「日南」が団体列車として復活運転した実績があり、確か「ドリームにちりん」も同様にツアー列車として復活運転したことがあったと思います)
いずれにしても今回の夜行列車ツアー、私は参加できないと思いますが、もし同様な列車が近くで走るようなことがあれば一度乗ってみたいものです。